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「あの……私」
こんな時、クールな女は何と返すのだろうか。
「ん?」
隼人が景子の顔を覗き込む。
「……前から行ってみたかったお店があるんです」
景子がはにかみながら勇気を振り絞って口にすると、隼人は顔一面に笑顔を広げた。
「じゃあそこは、次、必ず行きましょう! 今日は俺に付き合ってくれませんか?」
そう言われ、広美が言った『如何わしいところ』という言葉が頭をよぎって、一瞬ドキッとした。
「え? ど、何処にですか?」
慌てて聞き返した。
「俺、今日奮発してフレンチのコース予約したんです。景子さんのために」
「え、ほんとですか? 嬉しい……」
思いがけない言葉に、嬉しさが込み上げて笑顔が溢れ、つい本心を口にしていた。
「俺もすっげー嬉しいです。じゃあ行きましょうか」
隼人は景子の手を取った。
――え、ちょっ……どういうことーー!?
景子の動揺に気付いたのか、隼人は屈託のない笑顔で言った。
「大丈夫ですよ。俺、勘違いしてないから……突然チューしたりとかしないので安心してください」
『ダレダレ詐欺』を仕掛けた景子は、隼人の『思わせ振り詐欺』――かどうかはわからないけれど――に引っ掛かり、彼のペースにどっぷり嵌まっていた。
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