思い思われ嵌め嵌まり

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彼を初めて見かけたのは三日前。店の近くの交差点で信号待ちをしている時だった。 何気無く目を遣った最前列にいた小さな男の子がぬいぐるみを落としたのだが、慌てて拾おうとしたところ、逆に足で蹴飛ばしてしまい、ぬいぐるみが車道に転がった。男の子が咄嗟に車道に飛び出した時には、もうそこまで車が迫っていたのだ。 「あっ!」と誰かが声を上げ、信号待ちしていた誰もが足を踏み出そうとした瞬間――一人の男性が男の子を片手で抱え上げた。危機一髪のところだった。 皆がほっと胸を撫で下ろすと、男の子の母親らしき女性が真っ青な顔で彼に駆け寄り「すみません! お怪我はありませんか? 私がちゃんと手を握ってなかったばっかりに……」と今にも泣き出しそうな表情で言った。 謝罪と礼を繰り返す女性に「大丈夫ですよ」と笑顔で応え、少し身体を屈めて男の子の頭を撫でた彼は「両方無事で良かった」と優しい笑顔でぬいぐるみを差し出した。 彼のその表情を見て、景子は恋に落ちたのだ。 何事もなかったように横断歩道を渡る彼の後ろ姿を、景子は見えなくなるまで目で追った。
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