思い思われ嵌め嵌まり

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その夜、景子は思い耽ていた。 手ぶらでスーツ姿だった彼は、近くの会社に勤めている可能性が高い。もしかするとまた会えるかもしれない。彼と知り合いになるにはどうしたらいいか、考えて考えて考えて思い付いたのは―― 『ダレダレ詐欺』だ。 詐欺といっても別に悪いことをするわけではない。すれ違いざまにペコリと会釈をするだけだ。すると相手は『誰だっけ?』と考える――それを繰り返すのだ。 心理学に『ザイアンスの法則』というのがあるらしい。 人は、知らない人に対して何らかの警戒心を抱くが、接触回数が増えることで次第に警戒心が消え、相手に好意を持つようになるというものだ。その法則を利用してみようと思ったのだ。 けれども、誰でもいいというわけではなく、第一印象が最も大事だということだ。 幸い景子はそれを満たしていた。アパレルショップで働く景子は、普段から服装は勿論、ヘアスタイルやメイク、ネイルなど、頭のてっぺんから足の爪先に至るまで気を遣っていたからだ。
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