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 年の瀬を控えた空港は浮かれた雰囲気が漂っている。  成田空港第一ターミナル南ウイング、海外出張に向かう美夏の見送りは決まってここだ。 「それじゃ行って来ます。クリスマスとお正月を一人きりにしてしまって、ごめんなさい……」 「仕方ないよ…… 仕事なんだから……」  貴志は少し歪んだ笑顔で答えた。 「お土産楽しみにしていてね。貴志の好きなコーヒーを買ってくるね」  曇りの無い美夏の笑顔が貴志の心を締め付けた。  ごめん、もうそのコーヒーを口にする事は出来ないんだ。喉元まで出掛かった言葉を飲み込んで、楽しみにしているよ、と貴志は言った。  貴志と美夏は結婚して七年目を迎えている。  平凡なサラリーマンをしている貴志と、実業家として成功を収めた美夏。国内にいくつものショップを持つ美夏は海外への進出も果たしている。そしてまたワイキキに新しい店舗をオープンさせる為、これから三ヶ月間の出張へと旅立つのだ。  セキュリティーゲートへと向かう美夏の背中を、貴志は呆然と見つめる。ゲートの前で立ち止まった美夏はいつもと同じように振り返り、笑顔を浮かべて軽く手を振った。 「行ってらっしゃい……」  貴志の声が掠れた。きっとこれが最後になる。貴志だけが抱えている思い。それが態度に現れないよう平静を装って、いつもと同じように手を挙げて微笑み返した。胸の奥から込み上げてくる激しい感情のうねりを必死に堪えて、美夏の背中を見送った。  これで終わりだ。貴志は高い天井を見上げ、溢れ出る涙を袖で拭って空港を後にした。
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