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検査が終わって診察室に入った時、担当医の顔がやけに険しかったのを思い出す。それはまさしく、晴天の霹靂だった……
検査前、重大な疾病が見受けられた場合に告知を希望するかどうか、と言う調査項目があった。貴志はその質問に、はい、と記入していたのだが、その質問が意味を持つ事になるなんて思いもよらなかった。
余命半年…… 何を言われたのか理解するのに苦労した。何かの間違いじゃないかと思った。きっと誰かの検査結果と間違えているのだ、そう信じたかったが、そこに誤りは無かった。
難治性の末期ガンで効果的な治療方法が確立されていない。
そんな事を言われた。効果があるかどうかは分からない抗がん剤の投与に望みを託すしか無かった。眉間に皺を寄せて話す医師の顔がぼやけて見え、背景の白い壁に美夏の笑顔が浮かび上がった。
この状況をどう説明すれば良いのだろうか……
貴志は美夏の事を考えた。不思議な事に、仕事の事とか、あとどれくらい生きられるのだろうとか、どんな死を迎えるのだろうか、と言った自分に関する事は何も頭に浮かばなかった。
美夏に迷惑を掛けてはならない。これは自分だけの問題だ。美香を巻き込まずに一人で解決しなければ……
貴志の頭はその事で一杯だった。だから、医師の説明なんてちっとも頭に入って来なかった。
病院を出て家に帰るまで、いや家に帰ってからもずっとその事で頭が一杯だった。美夏に合わせる顔が無い。会って何と切り出せば良いのだろう。胸が痛んだ。痛む原因が病気のせいなのか、心が病んでいるせいなのかは分からないが、呼吸をする度に胸が締め付けられるように痛んだ。
目を瞑って耳を塞ぐ。情報をシャットアウトすると、この世から隔絶された感じがした。このまま消えてしまえたら良いのに。そんな事さえ思った。
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