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あれから和先輩と何度かメッセージのやり取りをして、いよいよ今日は夏祭り。 俺は朝から落ち着かずに、無駄にうろうろとしていた。 それは、和先輩のメッセージの中に、特に葵先輩の名前が出なかったから。去年は三人で行った。 でも………もしかして、今年は二人で行けるのか? それとも、たまたま出なかっただけ? 二人だったら………変に期待しすぎちゃいけないと思いつつ。二人で並んで歩く神社の境内を想像して、にやける。 家の中をうろつく俺に、昼過ぎに起きてきた兄貴が声を掛けた。 「……お前……デートか?」 「……ち…違うよ」 「ふーん。ついに本命を落としたのかと思った」 「……」 本命は本命だけど………デートじゃないかも…っていうかデートじゃない。 俺が勝手に舞い上がってるだけだ。先輩にしたら後輩とちょっと出かける、そんな気持ちだろう……… 兄貴の言葉に、勝手にテンションが下がる。 「……まあ…頑張れよ」 何を感じ取ったのか、励ましてくれる兄貴。もしかしたら、先輩の好きな人って兄貴かも知れないんだよな…… 駅前のロータリーは、夏祭りに向かう人達で賑わっていた。待ち合わせの電光掲示板の前も沢山の人が居た。 約束した時間になっても現れない先輩。もう5分過ぎてる。もしかして、来れなくなった?たった5分が、妙に長く感じる。 「夏希!ごめん」 声がした方に振り向くと、白いTシャツとデニム姿の和先輩が、こっちに向かって走っている。 「…はぁ…はぁ…悪い…遅くなった」 「いや、大丈夫です。俺も、今来たところなんで」 息を切らす先輩に嘘をつく。本当は30分前からここにいた。 両手を膝に呼吸を整えていた先輩が顔を上げる。ふわっと笑った顔に、急速に心臓が動き出す。 「行こうか……」 歩き出す先輩。葵先輩は?やっぱり二人?俺も慌てて隣に並ぶ。 「……あの……葵先輩は?」 「……誘ってないけど……一緒が良かったか?」 先輩が、視線を上げて伺うように俺を見る。 「いや!そんなことないです。二人で、いいです。いや、二人がいいです」 思わず力説してしまった。俺の動揺に笑い出す先輩。 「……俺も二人がいいかな」 最後に聞こえた一言は、俺の聞き間違えじゃないと思う。 急に火照った首筋を不自然に手で隠しながら、神社の入口まで歩く。だんだんと増えていく人に先輩との距離が近くなって、あの香りを微かに感じ始める。 参道には沢山の夜店が両脇に並んでいて、賑わっていた。 「……俺、お腹すいてるんだ。何か食べようか」 「何がいいですか?みんな旨そう」 お店の看板を見ながら話してると、不意に手を握られた。 「あったぞ」 先輩が一つの店を指差して、俺の手を引く。二人向かった先に見えたのは、トルネードポテト。 「去年、夏希、旨いって夢中になって食べてたもんな」 先輩、そんなの……覚えてんの? 確かに、初めて食べて旨くて、来年も絶対食べるって騒いだ覚えがある。 でも、俺自身、今この時まで忘れてた。 先輩の頭の片隅に、俺の事がちゃんと刻まれてる感じがして、ちょっと感動だ。 「さあ、買おう」 そう言って先輩が離そうとした左手を、右手でぎゅっと掴んだ。
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