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「やっぱりいた!」
後ろから聞こえた声に、慌てて手を離して振り返ると、そこには頬を膨らませた葵先輩が立っていた。
「葵……」
「……葵先輩」
「……なんで二人で来てるんだよ!俺はのけ者か!」
「……そんなこと」
「夏期講習終わって和の教室に行ったら、もう帰ったって言われるし、携帯鳴らしても出ないし……」
「……だって葵、今年の祭りは無理だよなって言ってたから…行く気がないのかと思って」
「だからって、声ぐらいかけろよな」
「………ごめん…悪かったよ」
和先輩が葵先輩の肩に手を回して、あやすように謝る。
「おごれよな!」
「何でもおごるから……機嫌直せって」
「じゃあ早速、トルネードポテトだ」
葵先輩はニヤッと笑って、もうおじさんに注文してる。
………ああ、あっという間に終わった二人きりの時間。
もうちょっと手を繋いでいたかった……
和先輩の顔を見ると、ちょっと苦笑いをしてお店を指差した。
神社の境内、石垣になった部分に三人並んで座る。あのあと、焼きそばと綿飴を買って、すっかり機嫌が戻った葵先輩。
今は綿飴を食べて、口の周りについた飴を舌でペロペロ舐めてる。そして、残りの綿飴を黙って和先輩に差し出した。
目の前の綿飴を、当たり前のように口に入れる和先輩。
今、葵先輩が口をつけてた場所だよな………
いらっとするのに、先輩の口元から目が離せない。飴のせいで、さらに艶めいていく唇。
唇の上で溶けていく飴と、舌使いが色っぽくて、腹の奥がずんと熱くなる。
「……先輩達、同じ大学受験するんですか?」
自分の感情をなんとか紛らわしたくて、唐突に質問してしまった。
「……うん」
「和が、俺と離れたくないって」
「そんなこと言ってないだろう……フフ……でも、そうかもな。葵が一緒なら安心だ」
「……でも難しいんだよな~。和がどうしても行きたいって大学」
真ん中で、和先輩がそっと俯いた。
どうしても行きたいんだ………兄貴と同じ大学。
「大丈夫ですよ!先輩達なら……俺も同じ大学目指します」
「夏希、どこか知らないだろう」
葵先輩が笑いながら呟いても、何も言わない和先輩。僕もあえて何も言わなかった。
「……そろそろ花火が始まるな。ここからじゃ見えないんじゃないか?」
「そうだね、移動しようか」
先輩達が立ち上がったのを見て、俺も立ち上がる。前を歩く先輩達。
和先輩………やっぱり兄貴のこと……
モヤモヤした気持ちが、また膨らんでいく。いっそのこと告白して、バッサリふられた方が楽なんじゃないか……
香りとなって溢れ出した想いは、楽しいだけじゃなくて、苦しくて辛くて………
片思いが楽しいなんて、誰が言ったんだろう。
重くなる足取りに、前を歩く和先輩が不意に振り向いた。葵先輩には分からないようにすっと差し出された手。
その手の意味は?
突然の先輩の行動に、頭が働かない……それでも、俺は迷わずその手をとった。
苦しくても………
やっぱりその手を握りたいんだ。
握り返された手の温もりと、強く感じる香り。
目の前に大きな花火が上がった………
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