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それからも、頭の中は相変わらずあの香りのことでいっぱいだった。
俺の中の何かが、先輩の香りを求めてるみたいだ。
部活中も先輩の近くに居ると、自分が抑えられなくなりそうで、わざと距離を取っていた。
そのくせ、先輩からは目が離せなくて……
時々目が合ってしまうと、慌てて逸らす俺に先輩は不思議そうに首を傾げる。
何度か、心配そうに近づいてくる先輩を無視するように背を向けた。
だって今近づいたら......どうしてもその腕を取って、引き寄せたくなる。
休憩時間。頭からタオルを被りみんなの側から離れて座った。冷たく冷やしておいたタオルが頭の熱をとってくれる。
「……夏希」
頭の上から声がした。とうとう和先輩に捕まったと、ますます顔が上げられない。
ドサッという音と、すぐ隣に感じる体温。あの香りが周りを包む。
「……お前、なんか変だ」
「.......どこがですか?」
俺は、わざと何でもない風に聞き返す。
「.....俺の事....避けてないか?」
「..........そんなこと」
否定した俺のタオルが引っ張られ、顔を上げさせられる。
「.......俺......怒らせるような事した?」
「...........」
俺を真っ直ぐ見つめて、唇をぎゅっと結ぶ先輩。
だから........その顔は反則だよ。
「.......先輩の勘違いですよ。試合が近いから緊張してるんです」
苦笑いを浮かべ、その場しのぎの言い訳をする。
疑うように俺を見る先輩。立ち上がると、俺の正面にしゃがみこんだ。
「.........本当か?」
「.....本当です」
結んでいた唇が緩んで、少し心配そうに俺を見る。
ますます強くなった香りに、俺は先輩の唇に手を伸ばした。
親指でその唇をなぞる。
「......な………何?何かついてる?」
慌てて後ろに下がろうとした、先輩の顎を指で掴む。
「……じっとしててください」
先輩の瞳が居心地悪そうに、キョロキョロと動き出し、白い頬が薄紅色に染まっていく。
それと同時に、また強くなっていく香り。
………俺……何しようとしてる?
「....……埃…ついてました」
その身体を引き寄せようと、左手が動き出す寸前のところで口をついて出た言葉。
「......えっ?うそ……ありがとう。さっき倉庫に入った時かなぁ」
「...........」
先輩が手の甲で、唇をごしごしと擦った。
「和先輩ー!」
一年生のマネージャーが呼ぶ声に振り向く先輩。
「今、行くー!」
「……夏希、スタメンのプレッシャーは分かるけど、あんまり気負いすぎるなよ。何でも相談にのるから」
そう言い残して、バタバタと目の前から走り去った。
はぁ………スタメンのプレッシャーだったら、どんなにいいか……
あんたに触れたいのを必死で堪えてるなんて……相談出来るわけないだろう……
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