72人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
8
とうとう先輩達、最後の夏が始まった。
俺達の高校は、創立されてからまだ数年しかたってない新しい学校だ。そのせいか、去年もその前も、県大会の予選で敗れている。
ただ着実に順位は上げてきていて、今年はもしかしたらと、皆から期待を寄せられていた。
今日の相手は、同等か少し格上の学校。初日から大事な試合ということになる。
その為か、部員全員が緊張していて固い。まさか、先輩達最後の夏を一日目に終わらせるわけにはいかない。そう思えば思うほど、身体がいつものように動かなかった。
「おーい、なにしてんだお前ら」
不意に二階の観覧席から、聞き覚えのある呑気な声が聞こえた。
「「真冬先輩!」」
みんなの視線が一斉に上を向く。
「今日から始まるんだろう、なに最後みたいな顔してんだよ。」
「先輩、来てくれたんですね」
隣で和先輩が兄貴に声をかける。
「ああ、お前との約束だからな」
見つめ合う二人。
………なんだよこの雰囲気
「楽しんだもん勝ちだぞ」
兄貴の言葉に、俺の大好きな顔で微笑んだ。
「よーし。みんないくぞ」
和先輩の声と笑顔に、みんなの緊張が和らいだ。
「お前も足を引っ張るなよ」
次々とコートに入っていく背中を見ていたら、上からもう一言声がする。
「わかってるよ!」
俺はチラッと兄貴に視線を送ると、コートに向かった。
俺だって、勝って和先輩を笑顔にしてみせるんだからな……
ピー
試合終了を告げるホイッスル。得点板に並ぶ数字と響きわたる歓声。
勝った………
コート中央で先輩達が手を広げた。
「やったー!!」
抱き合い円陣を組む。
正面にいる和先輩が満面の笑みで、その顔を見たら声を上げて喜びたくなる。
円陣が崩れて、それぞれが肩を抱き合ったり声を掛け合い喜んでいると、俺のところに真っ直ぐに駆け寄り抱き締めてくれたのは、和先輩だった。
「夏希、やったな」
不意を突いて思い切り吸い込んだ先輩の香り………ああ……くらくらする。
これは、おれも思い切り抱き締め返していい場面だよな。
先輩の身体に腕を回し抱き締める。
………また、強くなった香り
一番に俺のところに来てくれるって、少しは期待してもいいってことだよね。
このまま連れ去りたいと思う俺は、やっぱり重症だ。
先輩が少し身体を離したのが分かって、もう一度だけぎゅっとしたあと、身体を離した。
「予選突破したみたいな喜びかただよな」
そう言う先輩の笑顔に二人で吹き出して笑った。
さあこのまま勝ち進むぞー
という俺達の意気込みは、二週間で呆気なく幕を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!