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「今日は、大学が終わったら真っ直ぐに家に帰るから」
そう言っていた和。
たぶん今は、大学にいる。
俺は駅から電車に乗ると、大学の最寄り駅まで向かった。
メッセージで結果を知らせるのは簡単だけど、やっぱり顔を見て伝えたい。
『講義は何時まで?』
電車の中でメッセージを送る。
直ぐについた既読。
『今日は今の講義が最後で、あと30分で終わる。それより、どうだった?もう結果は出たのか?』
少し焦ったような返事に、『今、大学に向かってる』そう返した。
駅から歩く大学への道のり。慌てて家を出てきたから上着だけを羽織ってきたせいで、顔にあたる風が冷たい。
「マフラーもしてくれば良かった」
呟く声も北風に紛れる。
道沿いに並ぶ桜の木。これが満開になる頃はここに通う日々が始まるんだ。
やっと、和に追い付く………
また同じ時を同じ場所で過ごせるんだ。何てことない街の景色が、輝きを増していく。自然と速くなる足どりに目的地まではあっという間だった。
高校よりも大きな門を見つめる。奥まで長く続いている建物。
その奥から、走ってくる人影。遠くからでも分かるその愛しい姿。
今日もお気に入りの上着を来てる。
「あっ!」
転びそうな姿に思わず声が出た。
キョロキョロと周りを見ながら、走る速さを変えずに真っ直ぐに俺に向かって走ってくる。
俺は両手を上にあげて、丸を作った。
一瞬驚いた顔をした和が、口角を上げて「やったー!」と叫ぶと更にスピードを上げた。
その姿に俺も走り出す。
両手を広げて、和に向かって………
勢いそのままに俺の胸に飛び込む和。
「おめでとう!やったな、凄いよ!えらいえらい!」
頭をぐりぐり撫でられて、子供のように褒められた。
興奮して、俺の周りを跳び跳ねる和の手首を握って引き寄せる。
力を入れて抱き締めると、やっと腕の中で大人しくなる和。
「これで、俺の願い事叶えて貰えるよね」
「…………もうその話か?」
「そのために頑張ったから」
腕の中で微笑んだ和。
「……俺も待ちくたびれたから…」
刺激の強い一言と、濃度を増した和の香りに酔いそうになると、言葉の続きがあった。
「卒業式の日に……もう予約してある」
「予約?」
「うん………あの海の、二人で泊まった海の旅館」
「……………」
「お前の卒業式が終わったら、そのまま二人で……」
驚きで和の目を見つめすぎたみたいで、照れたように下を向く顔が可愛くて、その場でキスしたくなる。
「……嬉しい」
わざと耳元で囁くように呟いた。
いよいよ……和の全部が俺のものになる……
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