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また.....この香り 最近、体育館で、部室で、ふとした瞬間に鼻腔を掠めるこの香り。 最初に気づいたのは、いつだったんだろう。 もう何年も前から知っている香りの気もする....... なのに......今はこの香りが気になって仕方がない....... 女の子達が纏っている香水。 どれも良い香りで、香りに敏感な俺は、時々その香りを確かめたりする。異性に興味を持ち始めた彼女達は、戸惑いながらも俺に身を委ねる。 でも.....この香りは そんな人工的な感じじゃなくて.......。 ボールが床を打ち付ける音が、鳴り響く体育館。もうすぐ先輩達の、最後の大会の予選が始まろうとしてる。 そんな大事な練習の合間。俺はあの香りが気になって集中できずにいた。 中学から始めたバスケット。今度の大会は、2年から一人だけスタメンに選ばれたというのに、このままじゃ…… 「.......どうした?集中してないな」 「........和(のどか)先輩」 肩に置かれた手に振り返ると、強くなる香り。 …………まさか……この香り… 俺は 先輩の腕を取ると、首筋に鼻を付けた。 「なんだよ?......夏希(なつき)?」 先輩の首筋から耳の後ろまで鼻を動かす。 .........この香りだ.... 甘くて柔らかくて......なのに妖しく惑わせるような..... 俺の身体の中に、ゆらっと炎を灯す香り。 「離せって!」 抵抗されると、余計に抱き締める腕に力が入る。 ........触れると.....強くなる香り 中学の部活で一緒になった先輩。面倒見が良くて優しくて、俺はそんな先輩が好きで同じ高校を選び、今また一緒にバスケをしている。 でも、先輩の香りをこんな風に感じたのは初めてで……… このままこの香りを感じていたい……腕の中で踠く先輩の身体が熱くなる。 「おい!何してるんだよ」 急に聞こえた声と共に、腕の中から和先輩が引っ張られる。 「........葵(あおい)先輩」 「.......和。大丈夫?」 「....う..うん。ああ、苦しかった」 赤い顔で慌てる和先輩。 「夏希。どうした?和を羽交い締めにして。苦しそうだったよ」 「.........すみません」 自分でも無意識のうちに、和先輩を思い切り抱き締めてしまっていた。 「.....お前、鍛えすぎ。逃げられなかったよ」 笑いながら俺の腕を拳で叩く先輩。 良かった……冗談だと思ってもらったみたいだ。 俺はどうしたんだ……部活の真っ最中の体育館で、男の先輩を抱き締めるなんて…… でも、あの香りに抗えなくて…… 「......和先輩……香水つけてます?」 俺の質問に、不思議そうな顔をする先輩。 「......香水なんて、つけないよな」 そう言って、葵先輩が和先輩の顔の横でクンクンと匂いを嗅ぐような仕草をする。 「......やめろよ葵。何もつけてないよ」 和先輩が葵先輩を押して、そのまま二人で笑ってる。いつも通り、目の前でじゃれつく先輩達。 葵先輩は、感じないんだ…… もう一度和先輩の側に近づいた。俺より少し小さい先輩が俺を見上げる。 葵先輩が、自分の方に和先輩を引き寄せる。 「……まじで、どうした?」 葵先輩の声のトーンが少し下がった気がした。 「……き……今日はラーメン食べて帰ろうぜ」 間でキョロキョロと二人の顔を交互に見ていた和先輩が声をあげた。 「いいね~じゃあもう少し頑張ろうぜ」 少しの間のあと、葵先輩がいつものように、口を四角くして笑う。 「よ~し。頑張りますか」 俺もいつものように笑った。 「おお」 ボールを手に駆け出す先輩達。 離れていく香りが胸を締め付ける。 .......俺だけが感じる...和先輩の香り
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