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四国
「これさ「モナ・リザ」ってどこから見ても目が合うっていうよね。目が追いかけてくる感じで、ちょっと怖くないですか?」
ひとり挙手して質問してくるこの男は笹野さんだ。
「そうですね。 絵画の中の人物と目が合うこの現象は「モナリザ効果」といわれています。有名ですね。ご存じの方も多いと思いますが何故なのか理由は分かっていません。絵画の中にはどの位置から見ても目が合わないと言われているものもあります……」
広大な美術館なので所々でガイドが作品を解説したりするサービスがある。
専門的な質問などには学芸員が対応するのだが、夏は新人なので、芸術鑑賞初心者の観光客などに、いろんな作品の見どころなどを説明したり、館内を案内する役目を割り当てられていた。
夏はイライラしていた。
夏の仕事中にやってくる。人の迷惑を考えない……笹野さん。
彼はこんな平日の昼間から美術館へ来ている、自分の仕事はどうしているんだろう。
秒でバレたといっても過言ではないくらいのスピードで、夏の就職先と現住所を突き止められた。
そしてこうやって彼は人の仕事の邪魔をしている。
来館者に説明をし終わると笹野さんに近づいた。
「もういい加減にしてください。何回来てるんですか。ご自分の仕事は大丈夫なんですか?」
「年間パスポート買ったんだよね。友の会の会員にもなったし」
「……」
「君が仕事以外で会ってくれたら、ここへ通う事も減らせるかもしれない」
「ラインのブロック解除しましたから、こちらから連絡をしますので、もう美術館には来ないで下さい」
笹野さんは「よしっ!」と言って小さくガッツポーズをする。
「職場の人に見られたら困りますから」
くるりと背を向けて夏はその場を後にした。
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