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俺の勤務地が神戸だと知ったら彼女はきっと、わざわざ東京まで来なくていいと言うだろう。
毎週新幹線で通っているなんて言えるわけがない。
じゃあ君が会いに来てくれるか?なんて言えるはずもない。
「どうしたんですか?入らないんですか?」
いつの間にか夏は、ドアを開けて待っていてくれたようだった。
「夏……晩御飯は食べた?」
「今日はたまたま知り合いとあったので、スペインバルに行ってきました。新しくできたお店で、もしかしたらうちのライバルになるかもしれない店です。偵察です」
「そうなんだ、知り合いって?」
少し突っ込んだ質問をしてしまった。
「マスターのお友達の方です。とてもいい人で、ご馳走していただきました」
「楽しかった?」
「はいとても話が合う人なので有意義な時間を過ごせました」
悔しい思いが込み上げる。俺はまだ一緒に食事に行ったことがないんだぞ。
思わず背中から夏を抱きしめた。
「ちょっと、待ってください。まだ荷物も下ろしてないので」
「いや、下ろさなくていい。そのまま出かけよう」
「え?」
「食事をしに行く」
「お腹減ってるんですか?まだ食べてなかったの?」
「ああ。君は酒でも飲めばいい」
新幹線の中で弁当食ったから、腹はそれほど減っていないが、とにかく二人でどこかへ行きたかった。
そのスペインバルという店よりも、もっと高級でお洒落で女の子が喜びそうな、そんな場所へ連れて行きたかった。
「ちょっと疲れているので、もう外出したくはないんですが……何か作りましょうか?豪華なものはできませんけど親子丼ぐらいならできます鶏肉があるんで」
彼女の手料理が食べられる!浮足立ってしまった。ぐらりと気持ちは親子丼へ傾く。けれど……
「君が行きたい所とかあれば連れてくから、スペインでもどこでも。なんなら本場まで行ったっていい」
彼女はそんな俺の言葉を無視して
「先にシャワーを浴びていてくださいその間にササっと作ってしまいますから」
そう言うと急ぎ足で部屋の中に入ってしまった。
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