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両親が相次いで亡くなった時か。祖母が死んだ時か。それとも祖母の家が消えた時、私は泣いただろうか。いつから涙を飲み込む癖がついたのだろう。
「メイ、私は、メイの幸せを願っている」
低く響くマヨヒガさんの声はいつも通り優しい。彼はこの優しさのまま、一人で壊れようとしていた。
最後まで一緒に居てほしいという約束を自分から反故にしようとしていた。
「それなら、離れないで」
私は床を撫でる。飛び出した板の欠片で指を切る。その痛みより、マヨヒガさんの覚悟のほうが辛かった。
泣いて、喚いて、床を叩いて。私はわあわあと、子供のように声を出して泣いた。
やがて糸が切れたように、私は床に大の字で寝転がる。
染みの浮かんだ天井が愛おしい。少し割れた壁も、削れた床も。なぜ忘れていたのだろう。なぜ忘れることができたのだろう。
「……一緒に居てほしいの」
マヨヒガさんをこの腕で抱きしめることができればいいのに。
「一緒に……お願い。一緒にいて、マヨヒガさん」
私はこれまで以上に、そう思った。
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