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変わらないのは食いしん坊の精神と、片づけが誰よりも早いことだけ。
私はマウスの電源を切り、流れるようにリュックの端っこを掴む。
……その途端、私の真後ろから素っ頓狂な甲高い声が響いた。
「あらっ。泉谷さん、もう出ちゃう?」
振り返ると、福福しい顔立ちの主任が私の顔を覗きこんでいた。
彼女は親指と人差し指を伸ばして、クイッとひねって見せる。
「これ。行くんでしょ? 課長のおごりだもん」
笑顔の主任の向こうに見えるのは、18時の文字を刻んだデジタル時計。
その時計を見上げる同僚たちの顔は明るい。
ホワイトボードに刻まれた『納涼会』の文字をみて、私は「あちゃー」の言葉を慌てて飲み込んだ。
(……忘れてた)
いつもは終電間近まで残業している同僚たちが、すでにパソコンを落としてネクタイまで緩めてる。
今日は会社の飲み会だ……と、私はようやくこの浮かれた空気の原因に思い至る。
梅雨時のビールは最高だよな。いやいや、冷酒でしょ。いやぁ僕は健康診断の数値が悪かったから、今日はもうハイボール一択ですよ。
さざめくような浮かれ声が、雨の音の中に反射する。
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