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1:時任(ときとう)先輩とお姫様
――11D、消息不明。
――HD(高次元)エラー発生。
――警戒レベル ∞(無限大)。
――影響 ∞(無限大)。
わたしはバタバタと大学内の連絡通路を走りぬけた。これだけ広いと在学生といえども、立ち入ったことのない場所がたくさんある。
学生が特殊棟と呼ぶ校舎の標本室を目指した。
目的は人体模型である。模型君と名付けられている、とても精巧な人形。
本物と見まがうばかりの内臓のレプリカが、パズルのように取り外しできるらしい。
時は学院祭間近。わたしの在籍する文学科の出し物は定番のお化け屋敷。仕掛けのために、どうしても模型君が必要なのだ。
「なんか、ちがう学校に来たみたい」
特殊棟に足を踏み入れるのは初めてだった。しんと静謐で人気のないさまはまるで廃墟のよう。
得体の知れない迫力に圧倒されつつ、わたしは標本室を目指す。
「わたくしを一体どうするおつもりなの?」
突然響いた甲高い声に、私はびくりと立ち止まった。
誰かいる。
いや、でも関わりたくない。私は完全無視を決め込んで再び駆けだした。
「いやです! お離しなさい!」
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