56:聡明な少女の顔

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 二人は寄り添うように近づいたまま、ゆっくりと波打ち際を歩いていた。 「時間が許すまで、ゆっくり語り合えばいいんだ。何も考えずに」  向こう側の二人を見つめていた次郎君の視線が、こちらに戻ってくる。  目があうと、わたしも頷いた。  一郎さんがどんな答えを出すのかは、はっきりしていない。  でも、もう答えはわかっている気がした。  きっと瞳子さんの想いに寄り添う決断をするだろう。 「トーコは悲しくないのですか?」  ジュゼットの胸には、ピンクのカバのぬいぐるみが抱かれている。  変わらずポッコリと膨らんだお腹には、この世界の命運を決める世界の欠片が入っている。  カバさんがそこに居るのかどうかは、ぬいぐるみが動かなくなってしまうとわからない。 「悲しいと思うよ、それは」 「でも、トーコはずっと笑っています。自分だけがいなくなるかもしれないのに……。あんなに大好きなイチローに会えなくなるのかもしれないのに」  ジュゼットには複雑なことなのかもしれない。  わたしは瞳子さんの気持ちをわかってほしくて、言葉を選ぶ。
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