56:聡明な少女の顔

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「もしジュゼットが自分のせいで、大好きな人や、大切な家族、全部を失ってしまうとしたら、どうする? もしジュゼットのせいで、世界がなくなってしまうとしたら」 「わたくしのせいで?」 「もしもの話ね」  ジュゼットのくるりとした癖のある金髪が潮風に煽られて広がる。もしもの話には、きっぱりとした返事があった。 「とても嫌ですわ」 「うん。そうだよね。そんなの嫌だよね」 「はい」 「じゃあ、次は、もしもジュゼットが病気で死んでしまったとするでしょ」 「わたくしが?」 「これも、もしもの話だよ」 「はい」 「自分が病気で死ぬなら、大好きな人にも一緒に死んで欲しいって思うかな」  今度は即答ではなかった。青い瞳が真剣に何かを考えている。たっぷりと時間をとってから、ジュゼットが首を横に振った。 「いいえ。最後まで手を繋いでそばにいて欲しいですけど、母様に一緒に死んで欲しいとは思いません」  ジュゼットの大好きな人はお母さんか。少し微笑ましい気持ちになった。  わたしはジュゼットの頭にそっと手を置いた。
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