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「瞳子さんも、それと同じ気持ちなんだよ。ジュゼットが自分がいなくなってもお母さんには生きていて欲しいと思うように、瞳子さんも、自分がいなくなっても一郎さんに生きていて欲しいの。そして、自分のせいで世界がなくなってほしくないんだよ」
ジュゼットの口が泣きだす前のように、ぐっとへの字に曲がる。青い目がじわりと潤んだけれど、彼女は強く歯を食いしばってこらえた。
ここに来る前に、瞳子さんに泣かないでとお願いされていたから。
「――でも、瞳子さんも哀しくないわけじゃないよ」
「……はい」
ジュゼットが涙をこらえて、ずびっと鼻をすすった。
「わたくしも、もう二度と母様や父様に会えないかもしれないと思った時は、とても哀しかったです」
「うん」
「でも、わたくしはまた会えます」
「うん」
「わたくしは、わがままですわ。帰りたくないなんて」
「……お家に帰りたくなった?」
彼女は澄んだ海のような青い瞳で、じっとわたしを見た。
駄々をこねるような幼さがない。聡明な少女の顔だった。
「帰らなければいけないと、今は思います」
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