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57:宝物のように残ってほしい
健気な姿勢に、わたしの涙腺が緩みそうになる。瞳子さんの気持ちから、ジュゼットは何かを学んだのかもしれない。
「ジュゼットは、賢いね」
じんとこみ上げるものをごまかすように、笑って見せた。
わたしも泣かない。
わたし達が悲しむと、瞳子さんが余計に辛くなるだろうから。
「兄貴達、戻ってくる気配もないし、もったいないから先に食べようか」
次郎君が三段の重箱を開けて並べはじめた。おにぎりは半透明のプラスチック容器にぎっしりと詰められている。
「瞳子のご飯は、とても美味しいですわ」
ジュゼットがパッと幼い顔に戻る。胸に抱えていたピンクのカバのぬいぐるみから手を離すと、それはレジャーシートに転がらずに、ふよふよと浮遊した。
わ! カバさん、やっぱりまだそこにいたんだ。
「ワシ、もしかして賭けに負けるんかいな?」
「カバ、おまえ、まだ何か企んでいるのか?」
カバさんを見つけた途端、次郎君が殺気立つ。カバさんは次郎君には全く興味を示さず、ジュゼットの方へ向きを変えた。
「姫さんは、帰りたいんか?」
「――はい。今は帰らなければいけないと思っています」
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