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「お前馬鹿じゃねえの」
あれから、二十年後。頭を抱えるぼくに、親友は呆れ果てた顔で言った。
「そりゃ、小さい頃の約束ってのは大事だろうよ。お嫁さんにするよ、とか軽い気持ちで口約束しちまうのはあるだろうよ」
「……ハイ」
「でもな、リコちゃんはない。あの子だけはない。何でそんな約束した?」
くわっ!彼は皺だらけの眉間にさらに深い皺を刻んで言ったのだ。
「五十歳も歳の離れた孫に!結婚してやるとか約束するジジイって本当に馬鹿じゃねえの!?」
いや、本当にそれです。
リコちゃん(当時五歳)と約束した当時、ぼくは五十五歳。立派な中年。今に至っては七十五歳のれっきとしたおじいちゃんなわけで。
いやほんと、いくらリコちゃんがめろめろに可愛かったからってなんであんな約束しちゃったのか!
「いやでもまさかリコちゃんが本気にするだなんて思わないじゃないか!しかも五歳の頃の約束を二十五歳まで覚えてるとか!」
「実の祖父と結婚できると未だに信じてる可哀想な御嬢さんだぞ、責任取ってやれ」
「取れるか!」
リコちゃんが小さな頃から中高年のオジさんタレントばっかりカッコイイと言うあたり危ないとは思っていたが、マジで本当にそういう趣味になってしまったらしい。ちらっと見た彼女の部屋は、ぼくの写真でいっぱいだというから笑えない。
今日も今日とて、妻とお揃いのスマホには彼女からの好き好きLINEが来る。
『ナオトさーん!既読スルーなんてひどいじゃないですか、未来の奥さん相手に!今日こそは返信してくださいね!』
ああ、どう対処すればいいんだろう。ぼくは老眼鏡の奥で白目になって言った。
――機械音痴のおじーちゃんは言い訳の返信もできないんだよ察して!!
まずはスマホの操作を覚えるよりも、妻に土下座するのが先だろう。いろんな意味で。
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