2人が本棚に入れています
本棚に追加
「おいしい!」
晴香は居酒屋の餃子を口にし、目を丸めた。ハイボールを勢いよく飲み干し、店員に声をかける。
「すみませーん! ハイボール一つ! 忌野君は?」
「え?」
「半分以上なくなってる」
忌野はまだ1杯目のウーロン茶である。
「いや、いいよ」
「そう? じゃ、以上で!」
晴香の笑顔が眩い。当時は彼もこの笑顔に惹かれたわけだが、結果は完全な失敗だった。顔が赤くなるまで怒鳴られ、一方的に謝絶された。
そんな彼女が、今になって突如現れたというのはどういうことなのか。
「お酒、飲まないの?」
「いや、前に職場の先輩が酒で大暴れして。戒めの意味で飲んでない」
「アハハ! なにそれ!」
今の彼女は嘘のようにご機嫌である。
「転勤でさ、ここら辺に住むことになって。で、忌野君がいるって聞いたから」
「そうなんだ……」
「急でびっくりしたよね?」
「そりゃ……ね」
「あんな振られ方したから」という言葉が口元に浮かんできた。
「でも、連絡してみてよかった! 私さ、木曜日ってラッキーなことばかり起こるの」
「え?」
今日初めてまともに彼女の眼を見た気がする。
「私は勝手に『晴曜日』って呼んでるけど。昔からそうなの」
一方で、晴香との距離はもっと遠くなった気がした。今でも覚えている。あの日は間違いなく木曜日だった。彼女にとってそれは何なのだろうか。
忌野は、そんな感情を抑え込むようにウーロン茶を口にする。
「あの時は、振ってごめん」
口からウーロン茶が噴き出た。
最初のコメントを投稿しよう!