厄曜日

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「おいしい!」  晴香は居酒屋の餃子を口にし、目を丸めた。ハイボールを勢いよく飲み干し、店員に声をかける。 「すみませーん! ハイボール一つ! 忌野君は?」 「え?」 「半分以上なくなってる」  忌野はまだ1杯目のウーロン茶である。 「いや、いいよ」 「そう? じゃ、以上で!」  晴香の笑顔が眩い。当時は彼もこの笑顔に惹かれたわけだが、結果は完全な失敗だった。顔が赤くなるまで怒鳴られ、一方的に謝絶された。  そんな彼女が、今になって突如現れたというのはどういうことなのか。 「お酒、飲まないの?」 「いや、前に職場の先輩が酒で大暴れして。戒めの意味で飲んでない」 「アハハ! なにそれ!」  今の彼女は嘘のようにご機嫌である。 「転勤でさ、ここら辺に住むことになって。で、忌野君がいるって聞いたから」 「そうなんだ……」 「急でびっくりしたよね?」 「そりゃ……ね」  「あんな振られ方したから」という言葉が口元に浮かんできた。 「でも、連絡してみてよかった! 私さ、木曜日ってラッキーなことばかり起こるの」 「え?」  今日初めてまともに彼女の眼を見た気がする。 「私は勝手に『晴曜日(はれようび)』って呼んでるけど。昔からそうなの」  一方で、晴香との距離はもっと遠くなった気がした。今でも覚えている。あの日は間違いなく木曜日だった。彼女にとってそれは何なのだろうか。  忌野は、そんな感情を抑え込むようにウーロン茶を口にする。 「あの時は、振ってごめん」  口からウーロン茶が噴き出た。
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