厄曜日

6/8
前へ
/8ページ
次へ
「ちょ、大丈夫!?」 「う……うん、大丈夫」  鼻にも入ったようで、数回せき込む。店員からおしぼりをもらい、テーブルのお茶を拭う。 「やっぱり木曜日だな」 「え?」  また反射的に言葉が出た。しかし、そこから先は自分の意志で言葉が出てくる。 「さっきの先輩が大暴れしたのも、木曜日だったんだよ」 「……そうなの?」 「うん。昔からそうだった。テストの結果が悪くて怒られたのも木曜日、部活のレギュラーから漏れたのも木曜日。第1志望の会社に落ちた日も木曜日。君に振られたのも、木曜日」  晴香は瞬きしながら忌野の話をじっと見ながら聞いていた。 「君にとって、木曜は『晴曜日』かもしれない。でも、僕にとっては断トツの『厄曜日』なんだ」  こういうところがある。水を差してしまうことには、褒められたことではないが、人一倍の自信がある。周りの喧騒が大きくなる中、そのテーブルだけは静まり返ってしまった。  それが良くないことは彼が一番よくわかっていた。 「……怖いんだ。木曜日が来るのが。その日を過ごすのが」  忌野から発せられた声は、自分でも分かるくらいか細いものだった。晴香は何も言わず、じっとこちらを見ている。対して忌野はうなだれるように床を眺めた。 「私、金曜日なの」  静かに彼女はそう言った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加