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「……え?」
忌野が思わず顔を上げる。晴香は穏やかな顔をしていた。
「私、金曜がそれなの。その『厄曜日』?」
彼は最初その言葉が咀嚼できないでいた。しかし、それまであったかのように思えた見えない壁が、少しずつ低くなっていくように感じる。
「……本当?」
「本当よー! いっつも電車は途中で止まるし、先輩から怒られるし! 金曜日に有休取ったら必ず電話が来るんだから!」
堰を切ったように晴香は続ける。
「ひどい話よねー! 1週間で1番ラッキーな日の次が、1番アンラッキーなんだからさ」
話を聞いていたように2杯目のハイボールがやってくる。
「でもね」
そのまま彼女はグラスを手に、口をつけた。
「だからこそ、ラッキーな木曜はちゃんと謳歌しようって」
「そう、だったんだ……ごめん、なのにあんなこと」
「ううん! むしろ私も、あんな酷いこと言ってしまったこと、いつか謝りたかった」
今度は晴香が目線を落とした。
「言い訳になるけどさ、動揺しすぎてつい取り乱しちゃったの」
「ど、動揺?」
彼女は目線だけを忌野に戻し、上目遣いの形でこう告げた。
「木曜日は『晴曜日』って言ったでしょ?」
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