厄曜日

7/8
前へ
/8ページ
次へ
「……え?」  忌野が思わず顔を上げる。晴香は穏やかな顔をしていた。 「私、金曜がそれなの。その『厄曜日』?」  彼は最初その言葉が咀嚼できないでいた。しかし、それまであったかのように思えた見えない壁が、少しずつ低くなっていくように感じる。 「……本当?」 「本当よー! いっつも電車は途中で止まるし、先輩から怒られるし! 金曜日に有休取ったら必ず電話が来るんだから!」  堰を切ったように晴香は続ける。 「ひどい話よねー! 1週間で1番ラッキーな日の次が、1番アンラッキーなんだからさ」  話を聞いていたように2杯目のハイボールがやってくる。 「でもね」  そのまま彼女はグラスを手に、口をつけた。 「だからこそ、ラッキーな木曜はちゃんと謳歌しようって」 「そう、だったんだ……ごめん、なのにあんなこと」 「ううん! むしろ私も、あんな酷いこと言ってしまったこと、いつか謝りたかった」  今度は晴香が目線を落とした。 「言い訳になるけどさ、動揺しすぎてつい取り乱しちゃったの」 「ど、動揺?」  彼女は目線だけを忌野に戻し、上目遣いの形でこう告げた。 「木曜日は『晴曜日』って言ったでしょ?」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加