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メンヘラ地雷女編
文花は夫を愛していた。しかしそれは執着なのか、愛なのかわからなかった。
愛しているけれど、彼の事を知り尽くして、把握しておきたい。そんな支配的な執着心があるのは事実だった。
結婚当初は、たぶん普通に愛していたと思う。平和な新婚生活は長く続かず、夫の浮気が発覚した。
仕事の取材だと家になかなか帰って来なくなった。
悪いとも思ったが夫の手帳を見た。そこには不倫相手との逢瀬のスケジュールが書き込まれ、しかも愛人は一人ではなかった。
同時に四人の女と不倫をしていた。
愛人の素性もSNSやネットで調べ上げた。探偵事務所に不倫の証拠を抑えて欲しいと相談に行ったが、金銭的事情で断念した。
何故かその探偵事務所の所長が文花を気に入り、無料で尾行の仕方などを教えてくれたのだった。
尾行を繰り返し、時には愛人の職場の侵入して情報を収集する事もあった。
とりあえず愛人と夫との間に子供はいない事にホッとしたが、胸に怒りや悲しみが溜まっていく。不倫は心の殺人というのは、本当なのかもしれない。
文花は離婚を切り出される事も覚悟してそれらの証拠を夫に見せつけた。
文花の予想では、夫は泣いて謝るものだろうと思っていた。
若干それが楽しみでさえあった。
夫は臆病な性格で自分が不利な立場になると動揺して時にはみっともなく泣く事もあった。
「あのね、これは芸の肥やしなんだよ、文花ちゃん」
子供を諭すような口ぶりだった。
開き直っていた。
夫は作家だった。
新人の時大きな賞もとり、ベストセラーもある。リアルな感情を丁寧に描くと定評の恋愛小説家。
「僕は、不倫しないと恋愛小説が書けないんだよ」
耳を疑うような事も言うではないか。
「ごねんね?」
全く悪く思っていな謝罪だった。口元に笑みまでを浮かべている。
「でも、僕は文花ちゃんを心から愛してるんだよ。離婚はしないよ」
こうして夫は不倫を止める事はなかった。
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