極悪婚活カウンセラー編

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夫とミイが不倫しているのは確かだった。  文花がその後、夫の跡をつけミイと一緒にラブホテルに入って行くところを目撃した。もちろん写真も抑えた。こんな尾行はもう何回もやっているので慣れている。  それに彼らは妙に浮かれていちゃついていて、後をつけている人物に全く気づかなかった。彼らは渋谷や品川、神奈川のラブホで逢瀬を重ね、何故か夫の自宅がある千葉の方には寄り付かなかった。  文花は自宅の書斎にパソコンで、その写真のデータを見つめていた。  書斎はもともと夫の小説のために資料を置く部屋だったが、夫は離れを作ってしまい、いつのまにか文花の自室と化してしまった。  夫の不倫の証拠は全てデータをまとめパソコンのフォルダに入れていた。写真の枚数は、累計数百枚以上に及ぶ。  文花は深くため息をつき、机の引き出しから一冊のノートを取り出した。  使い古された分厚いノートで、聖書ぐらいの厚みがあった。残念ながら、その内容は聖書と違って全く清らかなものではない。夫の歴代の愛人の素性をノートにまとめていた。文花は「愛人ノート」と勝手に読んでいた。  ボールペンをペンスタンドから引き抜き、ミイの事を書き込んだ。 『愛人No.51 浅山ミイ 38歳、既婚。山形県出身千葉県在住。職業は婚活アドバイザー。ブログや著書で多くのファンを持つ。 夫とは2021年4月知り合う。以来週に数回ラブホテルやミイの自宅で逢瀬を切り返している。 ミイの夫は都内のIT企業の社員だが、仲は冷え切っているため仮面夫婦状態。ミイの実家は地主で金持ち。高校は都内の嬢様学校に通い、国立大学卒業後にアパレルメーカーに就職。 出世しチェーン店の店長になり売り上げも何倍にもした実績があるが、突然辞めている。結婚相談所に転職後、すぐに結婚。 その後、婚活アドバイスをしているブログが人気となり、書籍化。婚活アドバイザーとして独立』  夫の手帳の書き込みやネットで見られるミイの公式プロフィールをまとめるとこんな感じだ。文花は愛人がノートにミイの情報を書くと、パソコンでミイのブログを見た。  毎日更新されているが、なかなか賛否両論になりそうなブログだった。文花は夫の愛人だという事実を差し引いても賛成の方にはいけない。 「ブスでも誰でも出会える!婚活アドバイス」というタイトルのブログだった。  歯に絹着せぬ文体で婚活女性の欠点をあげつらっていた。  メイクが上手くないキャリアウーマン、非正規の女性、スピリチュアルや親に依存している女性など毒舌で批判していた。  ブログには何度もブスという言葉出てきて、婚活など関係のない文花でも嫌な気持ちにるぐらいだった。ブスという言葉は夫の不倫がスキャンダルになった時、ネットでも現実でも何度も浴びせられた言葉で、嫌な記憶が蘇ってしまう。  ただメイクやモテテクニックなどは写真やイラストを豊富に使いわかりやすかった。  ミイのアドバイス通りに見事結婚できたファンから絶賛のコメントがブログに寄せられていた。  ミイの顔写真もブログに載っていた。確かにアナウンサーの様な美人ではあった。  紺色のパンツスーツがよく似合い、ハーフの様な顔立ちだったが、視線は鋭く知的な印象も与える。  写真だけ見れば人目も気にせず不倫相手とイチャイチャしているとはとうてい信じられなかった。ヘアメイクやファッションで上手く擬態しているなと文花は思った。内面の極悪さを隠す為にメイクやファッションを頑張っていそうである。  しかしこれだけでは、ミイの素性はわからない。 単なる遊びに不倫ですぐに別れるのか、それとも本気になり本妻に害悪を与えるのかは判断がつかなかった。  ただブログを見る限り健気で優しい性格の女には見えなかった。  それにブログにはアンチのコメントもたくさん書き込まれていた。  むしろアンチのコメントが多く軽く炎上していた。  例えば「非正規女性はブス!」という記事では、ミイは派遣やパートの女性をボコボコに叩き、努力不足だと強く主張していたが、日本の派遣法の改悪や中抜きの問題などが何件もコメント欄に書かれていた。  中には庶民派として有名な政治家やジャーナリストがコメントを寄せ、彼らの論理的な主張にミイも反論できない様だった。  もっともそれでブログの記事のな内容を訂正する様な事はなかったが。  ハンドルネーム華という人物が熱心なアンチの様だった。華のSNSやブログを見るとミイの批判で埋まっていた。  文花は少し迷ったが、華にメールを送った。事情や本名は伏せて「ミイに迷惑かけられている、何かミイに知っていることがあればなんでも教えて欲しいとメールを送った。  翌日、華からメールが届いていた。  ダメ元で送ったので、返事については期待していなかったがすぐに返ってきて驚く。  さっそく中身を見てみると、華はミイがアパレルショップに勤めていた時の部下であり、パワハラの様な事を受けていたという。  被害者は華だけでなく、人格否定の様な言葉を浴びせられたメンタルを悪くするミイの部下が続出していた。  社内ではミイの敵と味方に真っ二つに割れていた。上層部の多くは仕事のできるミイを買っていたが、若手社員やパート、アルバイトからの評判は最悪。とにかく人使いが荒く、言葉がキツい。  しかもミイは上司と不倫をが発覚して解雇された。  この事は無視できない。  文花は書斎のパソコンに身を乗り出してメールをじっくりと読んだ。  噂だと華は前置きしていたが、その上司の奥さんに嫌がらせを繰り返してノイローゼ状態にしてしまったという。 「婚活アドバイザーが人の家庭壊してるなんて皮肉!」と華は締めくくっていた。  やっぱりミイは要注意だ。  自分にどんな害を及ぼすかわからないと文花は思った。  同時のこれだけ情報を見ず知らずの人間に教えてくれた華に感謝をした。  お礼のメールと共に、ミイは今も不倫をしていてその妻である事もメールに書いて送った。
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