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『御手柄!作家の妻A子さん、殺人犯を捉える!』
その日から数日後、週刊誌に文花の武勇伝が掲載された。
ミイを殺した犯人を文花が捕まえたと週刊誌に記事が載った。
「どう言う事! 文花さん!」
比較的好意的に書かれた記事でも菜摘は御立腹のようだった。
雑誌を握りしめて文花に罵詈雑言を浴びせていた。狭い客間は菜摘の罵詈雑言のせいで、居心地が悪い。文花は肩をすくめて菜摘の訴えを聞くフリをした。
あの時、夫が自分を尾行していた事を文花は気づいていた。自分を守るために十羽を殴った事は予想外だったが。
藍沢が尾行していたことも気づいいた。彼は文花を疑いずっとつけられている事には気づいていた。さすがプロというべきか、週刊誌や十羽の尾行よりはわかりにくかったが。
夫の尾行は最低だった。
あの時、家を出てすぐに気づいた。
それでもそのままにしておいたのは、いざとなれば呼べば良いだろうとたかを括っていたからだった。
後に夫は、文花の不倫現場を見たかったから尾行していたと言っていたが、こんな危険な事を二度とするなと珍しく夫に叱られた。あの日以来、夫婦の力関係は微妙に逆転していた。
「クッキー焼いて見たんですよ。菜摘さんもいかが?」
文花はにこやかに笑って、クッキーが載ったお皿を菜摘に見せた。
「クッキーなんて」
「夫も好きなんです」
菜摘は渋々と言った表情でハート型のクッキー摘んだ。まじまじとそれを観察しながら、口に入れた。
「不味くないわ」
「今、友達と一緒にクッキー作りにハマってるんですよ。毎週土曜日で友達の家にみんなで集まって」
あの事件以来、秋子はすっかり気落ちするものだと心配して時々家に訪ねている。しかしその心配は杞憂で、憑き物がとれたかのように家事を頑張っている。
子供とも週一回会えるようになり、病気を治す為に前向きだった。文花はクッキー作りだけでなく、無添加で素材を生かした料理も教えてにいった。これがなかなか評判も良く、秋子の家の近所の主婦や華やナオコも呼んで賑やかに料理教室のような事を毎週土曜日にやっていた。
ちなみにナオコはこのおかげで料理の腕が上がり、婚約もできた。秋子も夫にクッキーや野菜のおかずを食べさせると好評だと言う。文花自身が言ったわけではないが、いつのまにか縁結び料理教室だと名付けられてしまった。
「ふうん、それも良いわね」
「菜摘さんも行きましょうよ。みんなでワイワイと楽しいですよ」
菜摘の表情が和らいだ。
「そうねぇ。でも私厳しいわよ? 弟に変なもの食わせたら許さない」
「はは、だから味見しにきてくださいよ」
「全く、もう」
そうは言っても菜摘は機嫌は悪く無さそうだった。
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