28 コラボカフェだぞっ

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28 コラボカフェだぞっ

 空はからっと晴れ渡って、絶好のコラボカフェ日和であった。おれは朝早くから支度をして、寮の玄関で芳を待つ。おれの服は、この日のために選んだ黄色いカットソーだ。 「お、上遠野。出掛けんの?」  玄関口にある管理人室の前で、竜樹と遭遇した。 「うん。竜樹も?」 「いや、俺は宅配便待ってる」 「まだじゃない?」  寮宛の荷物や郵便は、まず一階にある管理人室の前に集められる。そこから各自、受け取る形だ。宅配便は時間が決まっているので、受け取るには少し早い。 「最近、通販ハマってて。届くの待ってんのよ」 「そういうことね」  わかりみ。おれもDVDの発売日とか待機しちゃうもん。  荷物待ちの竜樹と喋っていると、程なく芳がやって来た。何となく、髪がキマッてる気がする。 「おう。待った?」 「ううん。何か今日、カッコいいね?」 「あ? あー、まあ、どうも」  照れたように目を逸らす芳に、思わず口許を緩める。可愛いじゃないの。 「じゃあ行こうか」  芳と並んで、寮を出る。風が気持ち良かった。    ◆   ◆   ◆  コラボカフェの前に着くと、既に女性ファンで一杯だった。みんな担当カラーをどこかに身に付けたり、グッズを持っているので誰のファンなのかすぐに解る。見たところ、ピンクを身に付けているファンが多いのは、この新宿店が『ユムノス』でピンクを担当している、百瀬ツカサが担当店舗だからだ。今回、五都市で開催されており、都市によってメンバーが違うのである。(亜嵐くんの店舗は抽選で外れた!)  とはいえ、コラボカフェは楽しいのだ。こうやって待つ時間すら楽しい。  カフェの外観を撮影していると、落ち着かないのか、芳が小声で聞いてくる。 「すげー列だな。人気なんだ」 「うん。特に若い女の子に人気なんだー」  カフェ列に並んでいるのはチケットを持っている人だけだが、結構な行列だ。時間制で入っているのが理由と言うのもある。 (グッズ売り切れてないと良いな~。SNSチェックしないと)  初日から二日経っていることもあり、グッズにちらほらと売り切れが出始めている。追加されているグッズもあるが、入荷待ちもあるようだ。 (事後通販あるかなー。あると良いんだけど)  そうやって待っているうちに、入場できる時間になる。入るとすぐにポップなインテリアで設えられた空間と、『ユムノス』の音楽に迎えられる。 (くぅ~っ! テンション爆上がりっ!)  店内はピンク色の風船やリボンで飾られていて、みんなすぐに撮影を始める。おれは案内された席に座ると、まずメニューを確認した。芳は可愛らしい空間に、少し恥ずかしそうだ。男性客はおれたちくらいしか居ないので、完全に目立っている。おれはいつものことだし芳がいるので、むしろ平気だ。 「おれが奢るから、好きに頼んで良い?」 「あ? 別に良いけど……。割り勘で良いぞ」 「そうは行かないから……。あとグッズ頂戴ね!」  約束して、メニューを流し見する。事前の情報で確認しているが、芳は結構食べる方なので予定より多く注文出来るはずだ。コラボメニューにはランダムコースターが付属するので、何としてでも亜嵐くんのコースターを入手したい。  ちなみにデザインはシンプルで、亜嵐くんのカラーである黄色にロゴがくっついているものだ。お顔は印刷されていない。レアでサイン入りがあるそうなので、基本はそれ狙いである。 「ドリンクは三杯はいけるよね。あとサラダとオムライス、唐揚げ盛り合わせとピザでしょ、それにカレーとこっちのプレート着けて、デザートがフレンチトーストとプリンアラモードとミニパフェと……」 「ちょっ、おいっ!?」 「あ、チーズケーキも頼まないとね!」 「待て待て待て」 「ん?」  慌てている芳に、メニューから顔を上げる。 「頼みすぎだろ!」 「大丈夫、いける、いける」  パパッとテーブルの上のタブレットから注文を確定させてしまう。ふふ。十六品だから、多少は来る可能性があるだろう。コースターの種類は各人、全員の六パターンにそれぞれレアでサインが印刷されたものの、計十二種類。レアの確率はどのくらいだろうか。一枚くらい引ければ良いんだが。ちなみに、『バナナとマンゴーのプリン亜嵐モード』というのが、亜嵐くんの考えたコラボメニューである。  注文が終わると、どのテーブルからも一気に人が離れる。グッズを買いにいったり、奥にある撮影スペースにある等身大パネルを撮影に行っているのだ。パネルは当然、百瀬ツカサなので、おれは撮影に行くつもりはない。亜嵐くんの親友であるメンバーのジェイなら、撮影したと思うけど。混雑もあるし、好きな人に譲ろうと思う。  あとの目的はグッズだ。キーホルダーやポスター、生写真、トレーディングカード、缶バッチにエコバック、Tシャツ、ティーセット、マスキングテープなどがあるようだ。他にもあるが、それは過去のライブなどで販売したグッズの再版なので既に持っている。なお、キーホルダーとポスター、生写真、トレーディングカード、缶バッチはランダム品である。運が悪いと推しに会えない。運ゲーである。 「なんか急にどっか行ったな」 「おれはもう少し空いてから行くね」 「ん? おう……」  今のうちに内装を撮影しておこう。ついでにSNSにも投稿して……。 (コラボカフェ来ました、と)  スマートフォンを弄っていると、芳が肘をテーブルに突きながらこちらを見る。 「なぁ」 「ん?」  退屈させてしまったかと、内心不安になる。 「その――良かったのか? 本当は、亜嵐ってやつのが良かったんだろ?」 「――そう、なんだけど……」  急にそんなことを言われ、驚いて言葉に詰まる。芳にそんな気遣いをしてもらえるとは思わなかった。 「っ、亜嵐くんは、札幌なんだっ……」  亜嵐くんは札幌店が担当なのだ。勿論、チケットが取れれば年休を使ってでも参加するのだが、何しろチケットが取れなかった。悲しい。 「そ、そうか……。そりゃ、遠いな」 「でも、芳が一緒に来てくれたから」  一人のコラボカフェより、二人のコラボカフェ。最高じゃない。 「っ、そうかよ」 「ふふ」  少し恥ずかしそうにしていた芳だが、この後テーブルに並んだ料理に、顔をひきつらせたのだった。
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