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スミレの転落は事故として処理された。葬儀には勿論参加したが、涙は一滴もでなかった。そればかりか私の心は晴れやかだったのだ。
しかし、罰というのは必ずくだるものだ。スミレは私の前に落ちてきた。べしゃりと落ちてきて、血の海を作り、恨み辛みを言うこともなくソッと消えていく。その繰り返し。
私にしか見えないその惨状を最初こそは恐れ、怯え、泣き叫んでいたが、今ではすっかりと慣れてしまった。
今日も今日とて足元に転がるスミレの遺体を無感情で見つめる。段々と透明になって消えていくその様を観察していると、前方から声がかかる。
「コツユ? どうしたの?」
ハッとして顔を上げると数歩先でこちらを振り返る先輩──いや、旦那の姿がある。不思議そうな表情をする旦那と手を繋いでいるのは今年2歳になる愛娘だ。
「ごめん、ちょっと靴がね」
テキトーな嘘をついて二人に追いつく。すると旦那達と私の間にまたスミレが落ちてきた。なんて短いスパン。
そうよね、私達は“親友”だもんね。親友ならいつでも、どこでも、何をしてても、いつまでも一緒じゃないとね。だから私の前に落ちてくるんでしょう? 付き合ってあげるけど、私は動じない。今の幸せを守る為に何事もないように振る舞う。
昔は落ちてくるスミレをつい視線で追ってしまい、「何かあるの?」なんて散々聞かれたものだ。でも今はそんなヘマはしない。
……だけど、娘の視線が上から下へと移動してじぃっと地面に釘つけになっているのを私は見逃さなかった。
《終》
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