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スミレはぶすっとした顔で図書室を後にした。これはご機嫌取りが大変そうだなと憂鬱になったが、何故私がそんなことをしなくてはならないのだろうかという疑問も浮かぶ。今までそんな疑問を抱いたことすらなかったのに、私の中で何かが変わってきていると実感した。
「さっきの子誰? 友達?」
迷惑そうな表情で首を傾げる副島先輩。この学校でスミレのことを知らない人間がいることに驚いてしまった。
「友達というか、母親同士が仲が良いので腐れ縁……ですかね」
スミレのことを“親友”だとは口が裂けても言えなかった。そう言えば先輩に嫌われる気がしたからだ。
「ふーん、そうなんだ。……それよりさ、今度の日曜って暇? もし予定が空いてるなら映画でも見に行かない? この前実写化した作品なんだけど、」
先輩の言葉に私は固まった。だってそんなのまるでデートじゃない。
だが浮かれるのは禁物だ。先輩は読書仲間として誘ってくれたのかもしれない。ドキドキと心臓を鳴らしながら先輩の方へと視線を向けると、先輩は耳まで真っ赤にして強く握った拳を震わせていた。緊張、していたのだろう。それはつまりデートだと考えてもいいはずだ。
「……はい、行きたいです」
泣き出しそうな声で答えると、先輩は嬉しそうに笑ってくれた。
次の日、登校すると机の中に差出人不明の手紙が入っていた。
ピンクファンシーな封筒の中には丸文字で綴られた“放課後、屋上で話そう”という一文。名前なんて書いていなくても直ぐに分かる。これはスミレの字だ。
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