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放課後、殆ど人気のない校舎を屋上まで向かってノロノロと歩いた。
こっちはスミレと話すことなどないが、昨日邪険にしてしまったのでこれ以上刺激するのは悪手である。何故ならスミレは私が少しでもつれない態度を取ると自分の母親に泣きつき、そこからうちの母親に伝わって私が怒られるという最悪なサイクルが昔から出来上がっていたからだ。
階段を上りきると、屋上へと繋がる重い扉はちょうど一人分通れる位の隙間があいていた。私が体を横にして蟹歩きでそこを抜けると、既にスミレの姿がそこにはあった。
彼女はフェンスを掴んで風景を眺めていたが、私が近づいて行くと素早くこちらに首を回して言ったのだ。
「コツユちゃん、あの地味男の事が好きなんでしょう」
地味男、それは即ち副島先輩のことで私はドキリ、いや、ギクリとした。そして一番知られたくない相手にこの恋心がバレてしまったと戦慄し冷や汗が流れた。
「ふーん、やっぱりそうなんだ。ならスミレがもらってもいい?」
にこにこと、スミレは何でもないことのように言い放つ。あまりに彼女が平然としているので、私も逆に落ち着いてしまった。
「なんで? スミレのタイプとは全然違うと思うんだけど?」
そう問いかけるとスミレは可愛らしいソプラノボイスで歌うように答える。
「うん、そうだね。むしろ大嫌いなタイプかなぁ。だからスミレに夢中にさせてからこっぴどくフッてやろうと思って」
「どうしてそんな酷いことをするの? それも私が好きな人って知ってるのに。……私達“親友”だよね」
自分でも随分と都合のいい事を言ったと思うが、スミレの良心に訴えかける作戦だったのだ。
だけど──。
「笑わせないでよ、あたしもあんたもお互いに“親友”だなんて思ってないくせに」
スミレはそう言って目を細め憎らしげに私を睨みつけた。
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