ひとすくい

6/6
前へ
/6ページ
次へ
   一週間後、私は息子を連れて夏祭りに来ていた。  数年ぶりの夏祭りに、息子は興奮しっぱなしだった。屋台の焼きそばを食べ、打ち上げ花火も見て「さぁ、帰ろう」という時に、息子の姿が見当たらないことに気づく。  たった少し目を離した隙に、どこかへ行ってしまったようだ。  私は必死に息子の名前を呼びながら、探した。すると祭りの会場から離れた寂れた場所に息子はいた。大きなプラスチックの箱の中を泳ぐ、金魚たちをジッと眺めている。 「ここにいたのか! 探したんだぞ!」 「お父さん! 金魚すくい、一緒にやろう!」  迷子になったら普通、泣いて怖がるだろうにケロッとしている。迷子になっていた自覚がないのかもしれない……まぁ無事に見つかったから、良しとしよう。  息子に促されて子供──親の代わりの店番だろうか──に料金を払い、二人でポイを持って泳ぐ金魚たちを見る。 「いいか? コツは、ポイは斜めに入れて水を落とすように掬うことだからな」 「わかった!」  さて、どの金魚を狙おうか?  泳ぐたくさんの赤の金魚や黒の出目金の中に、光り輝く金魚が一匹混じっていることに気づいた。  ──消えたくない。存在を返して!  私の頭の中に、必死に願う隼人の声と姿が見える。 「やっと、また会えた」  懐かしい声が聞こえた。  私は恐る恐る顔を上げる。そして、さっきは親の代わりの店番だと思った子供を改めて見た。その子供は七歳くらいの男の子で、戦隊ヒーローのお面をつけている。  その戦隊ヒーローは、に流行ったシリーズで──。 「約束だったもんな」  そう言って、子供はお面をずらす。その面の下から見えたのは、あの頃と全く変わらない隼人の顔だった。    ──どうして? 七歳を超えたら、たどり着けないはずだ。なのに、何故?    私はそこでハッとして、横で無邪気に金魚を掬おうとしている息子を見た。息子の年齢は、だ。  神様のお祭りに迷い込んだ息子を探しているうちに、私も再び迷い込んだのか? 「今度は見捨てないで、俺を()ってくれよ? 潤」  気づけばお面をつけた神様たちが、私たちを囲んでいた。                                (終)
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加