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今の息子と同じ七歳だった私は慣れない浴衣を着て、人混みをスイスイと進む少年の後を追いかけていた。
「隼人君、待って!」
「潤、早く来いよ~」
振り向いてそう言った、Tシャツに短パンを履いた少年の名前は「隼人」。
私は友達である彼と一緒に、近所の神社が主催する夏祭りに来ている。病弱でずっと家にいた私だったが、最近は調子が良いため念願のお祭りに行くことができたのだ。
「ったく、しょうがないなぁ」
「ごめん」
「倫太郎も来れればよかったのに。せっかく楽しみにしてたお祭り三人で回れなくて、ごめん」
彼の言う「倫太郎」とは、来る予定だったもう一人の友達の名前だ。急遽来れなくなり二人だけとなったことを、隼人は何故か謝った。
「別に隼人君のせいじゃないし、来年三人で行けばいいよ」
でも、私は悲しくなかった。
隼人は同い年だと言うのに、優しく面倒見がよい性格のせいか、私は友達というより兄のように親しみを感じていた。なので、むしろ二人っきり──独り占めができて嬉しいというのが、正直な感想である。
現に彼は「しょうがないなぁ」と言いつつ、私の手をはぐれないように握ってくれた。私が人混みに慣れておらず、上手く間をすり抜けられないことに気づいたからだ。
そんな隼人は、私にとってヒーローのような憧れの存在でもあった。
「なぁなぁ、何する? 初めてのお祭りなんだろ? 射的か? カキ氷か?」
このお祭りは毎年行われていたが、体調の関係で行くことができなかったから、彼の言う通り私にとってこれが初めてのお祭りだ。
そんなテレビや人聞きでしか知らなかった屋台が、今目の前にあった。
──正直、全部回りたい。
そう伝えると隼人はニカッと笑い、「そうだな! 全部制覇しようぜ!」と賛成してくれた。お互いのお小遣いを出し合い、屋台を巡る。食べ物は二人分ではなく、一人分を買って半分個にすることで節約した。
けれど子供が持てるお金の額なんて、たかが知れている。
タコ焼き、カキ氷、射的、お面屋さん、綿あめの屋台を回ったところで、私たちのお金は尽きた。最後の楽しみに残しておいた「金魚すくい」には、あと一〇〇円足りなかったのだ。
──最後じゃなく、初めに行くべきだったのかも。いや、ちゃんと残りのお金を計算していれば。
なんて、心の中で後悔した。
「しょうがない。明日、また来よう。な?」
「……そうだね」
しょんぼりと意気消沈する私を、隼人は慰めてくれた。
そして買ったお面──隼人は戦隊ヒーロー、私は人気キャラクターもの──を付け、私たちは境内の隅で買った綿あめを袋から出し食べていた。
「ん?」
そこで私は、あることに気づいた。
この神社は山のふもとにあるのだが、木々に隠れて山の頂上に続く獣道があるこに。加えて、その先に仄かな明かりが見えることにも。
「ねぇ、隼人君。あれ、なんだろう?」
「提灯の明かりかな? あっちにも屋台があるのかもしれない……見るだけ、行ってみるか?」
「うん!」
綿あめで口の周りをベタつかせた私たちは、その獣道を通って明かりを目指し歩き出した。
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