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──おかしい。
鬱蒼と茂った木々の下を隼人と歩きつつ、私はそう思った。
道の始まりである山のふもとで明かりを見た時は光り具合から、そんなに遠くはないと思った。けれど歩いても歩いても、一向に明かりとの距離が縮まらなかった。
彼も何も言わないが、不安なのだろう。
また私の手を握り、「大丈夫か?」とか「疲れてないか?」と尋ねてくる。それに対し私は「大丈夫」と、隼人にも自分にも言い聞かせるように返し続けた。
どれくらい歩いただろうか。
突然、目印としていた仄かな明かりが強く輝き、私たちを包み込む。眩しさからとっさに目を瞑り、再び目を開くと新たなお祭り会場の入り口にいた。
だが、ここは異質だった。屋台で売っている物も、祭り客も。人々は皆、顔にお面や被り物をしていた。
「あら、人の子が来るとは珍しい」
「ヒッ」
思わず私は、小さな悲鳴を上げる。一つ目のお面をつけた女が、いつの間にか背後から私たちを見下ろしていたためだ。
「早くお面を付けなさい。でないと、連れて行かれてしまうよ」
「だ、誰に?」
隼人が女から私を庇うように前に出て、尋ねた。
「ここにいる神様たちにね」
「神様?」
「そう、ここは神様のためのお祭り会場。ここの神社は人と神様、それぞれの祭りをやるんだよ。お前たち、歳は?」
「七歳だけど」
「なるほど、『七つまでは神のうち』と言うからねぇ。だから入れたのかもね……ほら、早く面を付けて」
女に促され、私たちは買ったお面を顔の横から前にずらして付ける。
「お姉さんの名前は?」
「人間からは『ミナシ様』と呼ばれている。せっかくだから、案内してあげよう」
私の問いに女──「ミナシ様」はそう答え、案内するべく歩き出した。
一見お面をつけただけの人間のように見えるが、浴衣から覗く左足以外の手足は人形のような作りものだった。
なら本当に彼女も、ここにいる祭り客も、人間じゃなく神様なのだろうか?
「どうする?」
私は、隣の隼人に聞く。
母や父から再三「知らない人にはついて行ってはいけないよ」と言われており、不安になってきたからだ。
「行ってみようぜ。神様のお祭りなんて初めてだ!」
好奇心旺盛な彼は、私とは逆で興奮しているようである。
「でも、大丈夫かな?」
「大丈夫、大丈夫! 俺がついてるから!」
その言葉に、私は頷いた。隼人の言葉は、自分に絶対的な安心感をもたらすものだったから。こうして私たちは、ミナシ様の後を追いかけて神様のお祭りに足を踏み入れたのだった。
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