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一週間後、私は息子を連れて夏祭りに来ていた。
数年ぶりの夏祭りに、息子は興奮しっぱなしだった。屋台の焼きそばを食べ、打ち上げ花火も見て「さぁ、帰ろう」という時に、息子の姿が見当たらないことに気づく。
たった少し目を離した隙に、どこかへ行ってしまったようだ。
私は必死に息子の名前を呼びながら、探した。すると祭りの会場から離れた寂れた場所に息子はいた。大きなプラスチックの箱の中を泳ぐ、金魚たちをジッと眺めている。
「ここにいたのか! 探したんだぞ!」
「お父さん! 金魚すくい、一緒にやろう!」
迷子になったら普通、泣いて怖がるだろうにケロッとしている。迷子になっていた自覚がないのかもしれない……まぁ無事に見つかったから、良しとしよう。
息子に促されて子供──親の代わりの店番だろうか──に料金を払い、二人でポイを持って泳ぐ金魚たちを見る。
「いいか? コツは、ポイは斜めに入れて水を落とすように掬うことだからな」
「わかった!」
さて、どの金魚を狙おうか?
泳ぐたくさんの赤の金魚や黒の出目金の中に、光り輝く金魚が一匹混じっていることに気づいた。
──消えたくない。存在を返して!
私の頭の中に、必死に願う隼人の声と姿が見える。
「やっと、また会えた」
懐かしい声が聞こえた。
私は恐る恐る顔を上げる。そして、さっきは親の代わりの店番だと思った子供を改めて見た。その子供は七歳くらいの男の子で、戦隊ヒーローのお面をつけている。
その戦隊ヒーローは、三〇年前に流行ったシリーズで──。
「約束だったもんな」
そう言って、子供はお面をずらす。その面の下から見えたのは、あの頃と全く変わらない隼人の顔だった。
──どうして? 七歳を超えたら、たどり着けないはずだ。なのに、何故?
私はそこでハッとして、横で無邪気に金魚を掬おうとしている息子を見た。息子の年齢は、七歳だ。
神様のお祭りに迷い込んだ息子を探しているうちに、私も再び迷い込んだのか?
「今度は見捨てないで、俺を掬ってくれよ? 潤」
気づけばお面をつけた神様たちが、私たちを囲んでいた。
(終)
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