許さないで下さい

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◆ ◇ ◇  突然、幼馴染が、自分を避け始めた時は驚いた。いつも一緒に登校してるはずなのに、先に行っちゃうし、学校内で会っても目を逸らすし、声を掛けようと思えば何処かに行っちゃう。まるで、逃げているように行動するのだ。そんなことが続いて、二週間。 「どーした、イケメン。落ち込んだ顔して」  避けられ始めて戸惑っているオレに、絡んでくるのは友達の舞だった。舞なりに心配してくれているようで、顔を不思議そうに覗いてくる。 「……避けられた」 「え、誰に?」 「ナツに」 「夏樹に?」 「あぁ」  「おいおい、一咲、オメーなにした?」と、舞は本気で心配した顔つきになる。それもそのはず、オレとナツが、喧嘩することは滅多にないのだ。舞はそれを知っている。だからこそ、こんなにも驚いているのだろう。 「オレは、別に何にもしてない」 「はぁ? 夏樹に避けられるって、一咲とんでもないことしたな? 無意識か?」 「だから、してないって」 「うそだろ」  「あの夏樹が、お前を避けるのか?!」と、舞は焦る。オレだって、焦ってる。ナツがーーーあんなに優しかった幼馴染が、急に離れていくなんて。嫌いになったのか? オレのことが。  嫌われたのか?  その言葉が、心の中で反芻する。嫌だ。やだやだ。嫌われたくない。  何故か、心がとてつもない拒否反応を起こす。  嫌われたくない。嫌われたくない。嫌われたくない。  キラワレタクナイ。  ナツには、嫌われたくないんだ。他の誰に嫌われようと、あの優しい優しい幼馴染に、嫌われたくないんだ。何故かは、わからない。だけど、力強く、嫌われたくないと心が叫ぶ。  ふと、ナツが、目の前を通った。  オレにはわかんない。ナツがオレを避ける理由が。わかんないまま避けられるだなんて、嫌だった。何が嫌だったのか、オレはナツにしっかりと言葉で伝えてほしかった。今は、昼休みであり、話す時間は十分ある。否、十二分ある。  舞は、静かにオレの背中を押した。「行け」と、小さくつぶやきながら。この友達は、人の気持ちを汲み取るのが、オレなんかよりよっぽど上手いらしい。舞には、オレがナツと喋りたがってるのは、お見通しなのかな。 「ナツ!」  オレが声を掛ければ、彼はバツの悪そうに下を向いた。それから、へらへら媚びるような笑みを浮かべて、「ごめん、何かな? 今、ちょっと忙しいんだよね」と、言おうとする。だがーーーー言わせない。 「逃げないでよ」  オレは、ただそう言って、しっかり、相手の目を見つめた。目を逸らされても、絶対に、もう逸らしはしない。もう、逃がさない。もう、避けられるなんて御免だ。 「イチくん? 急に何? 別に逃げてないよ」 「じゃあ……、なんで?」  みんなが、なんだなんだと、こちらを見る。自分で言うつもりはないが、この容姿だ。歩いているだけでも、かなり目立つのに、険悪そうに、誰かと話してたら、尚更、目立つだろう。 「……ごめん。ここじゃあ場所が悪いや。屋上、行こう」  ナツはそう言って笑う。その笑顔は、いつも通りとは程遠くて、ひとり悲しくなる。自然じゃない。まるで貼り付けたような、人工のもの。やはり、嫌われたのだろう。それはもう、修復不可能なぐらい。  一体、オレは、どこで間違えたんだ?  答えなんてない問いが、心の中で響く。からっぽの心の中で。
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