13人が本棚に入れています
本棚に追加
◇ ◇ ◆
「好きだから…………だから、避けてたんだ」
「ごめんね、ごめんね」ナツは、途端に、オレよりも大きな涙を流し始め、そう言った。
「だから、そんなに泣かないで。お願い。好きな人が泣いてる姿は、見たくない」
泣いてるナツは、そういって、オレの涙を拭った。その前に、自分の涙を拭いたほうがいいんじゃない? と言おうとしたが、言葉が出ない。それだけ、泣いてる。オレも、意外と、大概だ。
「ごめんね、身勝手で。ごめんね、好きで」
泣いて、オレの涙を拭いながら、彼は言った。
「……ん、な…、謝るなよ…っ」
「でも」
大好きな人が、こんな泣きながら言ってるのに、無視するナツの口元を、無理やり、手で塞ぐ。ナツは、そんなオレを見て、いつもと同じように、優しく微笑んだ。
「謝って、ほしくない。オレに……、とっても、ナツは大事だから」
泣いて、ひっでー顔しているであろうオレを見て、ナツは、悲しそうに目を細めた。何か言いたげな瞳を揺らしてる。
「そうだね、“大事”。“大事”、だね」
「………その。ナツの言う、“好き”は…、わかんないけど……、少なくとも、ナツは…、大事だよ」
「うん」
「大事にしてくれてありがとう」ナツは、悲しそうに寂しそうにそう言った。知ってる。ナツが望んでるのは“大事”じゃなくて“好き”って言葉。そのくらい、オレにもわかる。だけど、言えない。“好き”がわからないから、言えない。
ただ一つ言えるのはーーーー
「離れないでくれ」
ーーーーこの言葉。
舞は言葉を失っていた。そんなオレ、変なこと言ったか? ただ、“好き”と思う感情がなんなのか聞いただけなのだが。
「“好き”が何か教えろってんの?」
「あぁ。“好き”ってなんだ?」
「お、お前がそんなことを質問してくるとはな」
「どうでもいい。早く、“好き”がなんだか教えろ」
「横暴だな。“好き”っつーのは、相手を思う気持ち? 一緒にいて心地よいとか思う気持ちじゃね?」
「なんで、疑問系なんだ?」
「わかんねぇからだわ!」
舞は呆れ気味に、オレを見る。「そういうのは、お前の方が詳しくね?」と呟いて。
「なんで?」
「え、だって、一咲って夏樹と付き合ってんじゃねえの?」
「はぁ?」
「え?」
オレと、ナツは付き合ってたのか?
「だ、だって、異常に、お前と夏樹の距離がちけぇし、幼馴染だって言ってたし、てっきり付き合ってたのかと………」
舞の言葉に、何も言い返せなかった。確かに、意識してみれば、オレとナツは、常に距離が近かったかも。それは、側からみれば、恋人同士の距離に見えるくらいに。無意識だが、そうだったのか? オレってナツのことが好きだったのか?
「……じゃあ、ずっと自分だけを見てほしい、ずっとそばにいてほしいって思う気持ちも“好き”、なのか?」
「まあそうじゃね?」
「じゃあ、オレはナツのことが好きだ」
なんでずっと気づかなかったんだろう? オレは、ナツが好きだ。ずっとずっと、前から好きだったんだ。ずっと好きだった。
「オレ、ナツが好き」
「おう。それを俺じゃなくて、夏樹に伝えてやんなよ」
「……そうだな」
そうだ、伝えなきゃ。彼の欲しがってた二文字を、ちゃんと向き合って伝えなきゃ。離れないで、と言ったはもののあれから、オレとナツの間には確実に距離があった。近づいてはいけないと、言うかのようにナツは、静かにオレを避けていた。本当は気づいてた。だけど、言えなかった。それを言うとまた、泣かせちゃう気がしたから。
「言わないと、オレ」
舞は黙って頷いた。そうだ、言わないと。口にしないと、伝わんないから。ちゃんと、言わないと。
逃げていく君を、捕まえに行こう。捕まえたらもう、離さないから。覚悟しといてね。
最初のコメントを投稿しよう!