許さないで下さい

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◇ ◇ ◆ 「好きだから…………だから、避けてたんだ」  「ごめんね、ごめんね」ナツは、途端に、オレよりも大きな涙を流し始め、そう言った。 「だから、そんなに泣かないで。お願い。好きな人が泣いてる姿は、見たくない」  泣いてるナツは、そういって、オレの涙を拭った。その前に、自分の涙を拭いたほうがいいんじゃない? と言おうとしたが、言葉が出ない。それだけ、泣いてる。オレも、意外と、大概だ。 「ごめんね、身勝手で。ごめんね、好きで」  泣いて、オレの涙を拭いながら、彼は言った。 「……ん、な…、謝るなよ…っ」 「でも」  大好きな人が、こんな泣きながら言ってるのに、無視するナツの口元を、無理やり、手で塞ぐ。ナツは、そんなオレを見て、いつもと同じように、優しく微笑んだ。 「謝って、ほしくない。オレに……、とっても、ナツは大事だから」  泣いて、ひっでー顔しているであろうオレを見て、ナツは、悲しそうに目を細めた。何か言いたげな瞳を揺らしてる。 「そうだね、“大事”。“大事”、だね」 「………その。ナツの言う、“好き”は…、わかんないけど……、少なくとも、ナツは…、大事だよ」 「うん」  「大事にしてくれてありがとう」ナツは、悲しそうに寂しそうにそう言った。知ってる。ナツが望んでるのは“大事”じゃなくて“好き”って言葉。そのくらい、オレにもわかる。だけど、言えない。“好き”がわからないから、言えない。  ただ一つ言えるのはーーーー 「離れないでくれ」 ーーーーこの言葉。  舞は言葉を失っていた。そんなオレ、変なこと言ったか? ただ、“好き”と思う感情がなんなのか聞いただけなのだが。 「“好き”が何か教えろってんの?」 「あぁ。“好き”ってなんだ?」 「お、お前がそんなことを質問してくるとはな」 「どうでもいい。早く、“好き”がなんだか教えろ」 「横暴だな。“好き”っつーのは、相手を思う気持ち? 一緒にいて心地よいとか思う気持ちじゃね?」 「なんで、疑問系なんだ?」 「わかんねぇからだわ!」  舞は呆れ気味に、オレを見る。「そういうのは、お前の方が詳しくね?」と呟いて。 「なんで?」 「え、だって、一咲って夏樹と付き合ってんじゃねえの?」 「はぁ?」 「え?」  オレと、ナツは付き合ってたのか? 「だ、だって、異常に、お前と夏樹の距離がちけぇし、幼馴染だって言ってたし、てっきり付き合ってたのかと………」  舞の言葉に、何も言い返せなかった。確かに、意識してみれば、オレとナツは、常に距離が近かったかも。それは、側からみれば、恋人同士の距離に見えるくらいに。無意識だが、そうだったのか? オレってナツのことが好きだったのか? 「……じゃあ、ずっと自分だけを見てほしい、ずっとそばにいてほしいって思う気持ちも“好き”、なのか?」 「まあそうじゃね?」 「じゃあ、オレはナツのことが好きだ」  なんでずっと気づかなかったんだろう? オレは、ナツが好きだ。ずっとずっと、前から好きだったんだ。ずっと好きだった。 「オレ、ナツが好き」 「おう。それを俺じゃなくて、夏樹に伝えてやんなよ」 「……そうだな」  そうだ、伝えなきゃ。彼の欲しがってた二文字を、ちゃんと向き合って伝えなきゃ。離れないで、と言ったはもののあれから、オレとナツの間には確実に距離があった。近づいてはいけないと、言うかのようにナツは、静かにオレを避けていた。本当は気づいてた。だけど、言えなかった。それを言うとまた、泣かせちゃう気がしたから。 「言わないと、オレ」  舞は黙って頷いた。そうだ、言わないと。口にしないと、伝わんないから。ちゃんと、言わないと。  逃げていく君を、捕まえに行こう。捕まえたらもう、離さないから。覚悟しといてね。
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