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十月桜 第9話
氷青は忍の身体がほぐれるまで、焦らずに忍を待っていた。
シャワーを浴びても、忍の身体は硬いままだった。広い湯船にぬるいお湯を張ると、氷青は自分の身体に忍を載せるようにして湯に浸かった。忍は氷青の胸に頭を預けると、氷青の心音にじっと耳を傾けていた。氷青の鼓動を聞いていると、心が静まってくる。
「こんなふうに父親とお風呂に入ったことはある?」
「ないよ。父は私には、あまり興味がなかった」
「じゃあ、忍さんの身体を洗わせて。人の面倒を見るのは、けっこう好きなんだ」
氷青は忍の身体と髪を丁寧に洗うと、バスタオルで忍の身体を拭いた。忍の髪をドライヤーで乾かす。やわらかく髪を梳く氷青の指が心地よい。寝間着を着せられるまで、忍は自分の手をいっさい動かさなかった。
「君はいつもこんなことをしていたのか?」
「その人が望めばね。でも、望楼の客は僕の身体にしか用がなかった」
自分の衣服ではサイズが合わないため、忍は氷青に父親の浴衣を貸した。
「好きな人ができたら、そのひとが嫌というまで大事にしようと思ってたんだ」
忍の前髪を手で整えて、氷青が幸せそうに笑う。
「忍さんを大事にさせて。ずっと僕が面倒を見るから」
氷青が照れたように顔を赤くした。口元を覆って、忍から目を逸らす。
「けっこう恥ずかしい奴だよね、僕は」
「そんなことないよ」
氷青の熱が身体に移って、足元がフワフワとおぼつかなくなる。忍は胸が高鳴るのを感じながら、氷青の手を引いて寝室へ向かった。
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