十月桜 第11話*

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十月桜 第11話*

 氷青はオリーブオイルを手に寝室へ戻ってきた。 「無理だったら、いつでもやめるよ」  控えめにキスをする氷青に、忍は頷いた。自分の鼓動の高まりを感じながら、氷青へ足を開く。忍のやわらかい中心を、氷青は口に含んだ。 「……ッ、ん……」 「声を聞かせて」 「気持ち悪くないか」 「あなたのいやらしい声で、僕は高まるんだよ」  氷青が勃ちあがった陰茎に唾液をなじませる。敏感な裏側を刺激されて、身体がビクリと波打つ。  喉の奥深くに引き込まれて、忍はシーツを掴むと腰から湧き上がる快感に耐えた。 「イクから……離して……」  忍が氷青の頭に手をかける。が、氷青はいっそう深く忍を呑み込んで絞り上げた。 「ああっ」  胸郭を大きく上下させて、忍は欲望を氷青の口に叩きつけた。氷青が忍の欲望を飲み下す。 「飲まなくてもいいのに」 「僕は初めて好きな人と愛し合うんだよ。好きな人のすべてを味わいたい」  氷青が忍の頭を撫でる。 「あなたも、好きな人と愛し合うのは初めてだね」  氷青は自分を、踏み荒らされた雪原のような人だと言った。長いあいだずっと閉ざされていた雪原には、雪が重く降り積もってきたことだろう。その雪を今、氷青が溶かそうとしている。身体が緊張で硬直する。 「大丈夫だよ」  氷青はやわらかい舌で忍の唇を開いた。氷青は自分を傷つけるようなことはしない。おずおずと舌を触れさせる。忍が氷青と舌を重ね合わせていると、心臓の鼓動が激しくなる。 「忍さんのなかに入ってもいい?」  氷青に唇を押しつけて、頷く。  後孔をほぐす指を、忍は息を深く吐きながら受け入れた。父の指よりも異物感は大きくない。父の陰茎はかつての自分の腕のように太く、浮き出した血管が不気味だった。忍が父を呑み込むと、自分の後孔が引きつって、身体が鋭く裂かれるような気がした。 「忍さん、大丈夫?」  氷青の声に、身体の力が緩んだ。この指は父のものではない。氷青は自分の身体を引き裂きはしない。忍は心配そうに見下ろす氷青に微笑んだ。 「続けてくれ」  氷青はふたたび、忍の身体を慣らし始めた。  忍の身体がやわらかくなると、氷青はオリーブオイルをなじませた自身をそっと忍へあてがった。 「忍さん、ひとつになろう」  忍が頷く。氷青は蕩けるような笑みを見せて、忍の後孔へ自分の身体を沈めた。  身体を貫く熱の塊を、息を吐いて受け入れる。くさむらが触れ合うまで身体を埋め込むと、氷青は身体を隙間なく押しつけるようにして忍を抱きしめた。 「あなたのなかが、僕に吸い付いてくる」  氷青が忍へ笑いかける。氷青の優しげな目に包まれて、忍の身体の緊張が和らぐ。 「あなたの身体が、僕を求めてる。わかる?」  氷青がゆっくりと身体の奥に触れると、忍の全身に甘い電流が走った。 「わかる……」 「このままひとつに溶けていきたいね」 「うん……」  触れ合った後孔から、圧迫感と心地よい痺れが湧き上がってくる。氷青の穏やかな律動に合わせて、忍は甘やかな泣き声をあげた。 「忍さん。愛している」 「うん」  汗ばんだ身体を絡み合わせて、重い快楽を受け止める。激しくなる律動に合わせて、腰をゆっくりとうねらせる。 「忍さん、きれいだ」  白いもやがかかった視界で、氷青が幸せそうに笑う。 「こんなにきれいな人、生まれて初めて見る」  酔いが回ったように目眩がする。氷青の声に、指に、心が温められて、身体がやわらかく溶けていく。 「忍さん、いくよ」  氷青の腰の動きが速くなる。忍は全身を包む安堵感に浸りながら、同じ高みへ駆け上がっていった。
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