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侘助 第3話
望楼には細かい符丁があった。季節の挨拶から握手の指の折り方、目線の遣り方に至るまで。客によって符丁は異なり、一族の者へ受け継がれる。私は父から符丁を教わった。
はじめての望楼の儀式で身体の深い部分に父の唇を受けた。十歳になった秋のことである。
Xの磔台に逆さに吊られた私は、首をねじ曲げられ床に両腕をひらいていた。足首をやわらかい布で巻かれた革のベルトで固定され、貧弱な胸と下生えのない股間を虚空に晒していた。
私は、父が何をしようとしているかわかっていた。待ち焦がれながらも恐れていた、この瞬間がようやく来たのだと思っていた。
父はひらかれた両の踵に唇をつけ、足先から香油を滴らせながら、私の入り口まで丹念に印を刻んでいった。
この日は秘所を唇でやわらげるところで終わった。
数ヶ月かけて父は精通のない私の身体に快楽を教え込み、父を呑み込ませた。周到に仕立てたとはいえ、子供のころの私が父を受け入れるのはたやすいことではなかった。
それでも私は父との行為に悦びを感じていた。気難しい父が唯一私に見せてくれるやさしい顔。それを見るためであれば、当時の私は何でもした。
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