侘助 第4話

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侘助 第4話

 父が男しか愛せぬ者であることを、私は投扇の宴に出てほどなく知った。母とは幼少のころから疎遠であった。父の親族は女を厭っていたため、私は母という存在に縁がなかった。私にとって母を兼ねた存在が父であった。背の高い体躯に、落ち窪んだ一重の大きな目、すらりとした鼻筋、うすい唇と額で分けた豊かな髪という一族の洗練された面差しの父を私は愛していた。  父は望楼で私を愛するまえから私を煽っていた。私の面前で別の男――ほとんどが望楼の華であったが――を抱き、絶頂を迎えたというのに凍てついた目で私を見る。  なぜその男が私ではないのかと、責める目をしていた。  父の目が私に向けられていないことを、当時の私は知るよしもなかった。
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