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侘助 第1話
父の在所で投扇興が催された。
投扇興とは、枕という木の箱の上に置かれた駒を扇で落とす遊びのことである。扇と駒――私たちはいちょうの葉のような駒を蝶と呼んだ――が落ちたかたちで点を競う。
扇と蝶がたわむれる役名には、源氏五十四帖の名がつけられていた。ひらいた扇の上に蝶が立てば浮船、扇と蝶がばらばらに倒れていれば花散里というように。扇と蝶の微妙な位置によって点が決まるので、参加したものは扇の見立てでさざめきたつ。技の見立てはその場の一番の年長者が行うことになっていた。
私が子供のころに参加した投扇興は、大人よりも活躍できる唯一の機会であった。緋毛氈の上に正座をし、扇をすらりと横にすべらせるように投げる。扇がふわりと浮き上がってしまうので、力の加減がむずかしい。
当時小学生だった私は、やがて扇と蝶の見立てがべつの意味を持っていることに気づいた。
大人たちの愉しみは宴ののちにあった。投扇興のその日の見立てによって、望楼の華たちと睦み合う。いたずらに酒を過ごさぬよう、目配せし合う大人たちのひそやかな笑いが、子供のころの私には無邪気な宴の細波であるように感じられた。
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