新聞部と曲者の夏祭り

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屋台や提灯の明かり、美味しそうな食べ物の匂い。 太鼓や笛の音楽と賑やかな人々の声。 部長のリア充への嫉妬から夏祭りへと取材にやってきた私たちはあの事件の一週間後、水川祭りへとやって来ていた。 勿論、月屋と二人ではない。 「僕、お祭り久しぶりなので楽しみです!」 キラキラとした眩しい笑顔でそう言うのは、今回初取材の春くんだ。 部員たちからあだ名で呼ばれているだけあり、人懐っこくて素直な性格。 これが高一だなんて信じられない。 無邪気な笑顔ともともとの可愛さが相まって物凄い破壊力になってる……! 後輩に萌え死にそうになりながらも、私はコホンと咳払いをした。 「今回は、『リア充を見つけてそのリア充がイチャついてるところを晒してしまえ』とか『元カノのことをその場で暴露しろ』という謎の命令が出ていますが、如何なさいましょうか」 「一応、やっとけば?修羅場おもろいし」 サラッとゲスいことを言う月屋に一応頷き、私は屋台の方を指さした。 「えーっと、取り敢えず三人で別れて探そうか」 「じゃあ、俺は奥、春が真ん中、冬木が手前で」 月屋の言葉に私は頷く。 この祭りは屋台が通路一直線に出てるから、端と真ん中でそれが妥当だろう。 「あの、なんで僕が真ん中で先輩たちが端なんですか?」 ふと、春くんが首を傾げて聞いてきた。 私はメモ帳とペンを取り出し、一本の線を書いた。 「ああ、それはね、私と月屋は顔が割れてるから結構みんな警戒して近づいてこないのよ。でも、私と鈴村が端にいればそれを避けてみんな真ん中に集まるでしょ?」 端に丸をつけ、真ん中に向かって矢印を引く。 私たち、前にやった企画のせいで一部から避けられてるからなぁ。 「んで、そこをまだそこまで顔が割れてない春日が捕まえて俺たちに連絡。そこから取材したらスムーズでしょ?って話」 「成程!挟み撃ち作戦ってことですね!」 月屋が説明を引き継ぎ、春くんが理解したところで私は二人に顔写真付きの名簿を渡す。 「はい、これ見つけたら即取材オーケーの人一覧ね。月屋は分かってると思うけど、新聞部でーすって言ったら理解してくれる人たちまとめたから、困ったらこの人たちに声掛けな」 「こんなものもあるんですね……」 「新聞部員が懇意にしてる生徒の方々です」 「懇意にはしてない。むしろ、嫌われてると思うけど」 この名簿にのってるってことはうちの部員に弱み握られてるってことだし。 その言い方はどうなのだろうか。 いつになく楽しそうな月屋が楽しそうだし、これは修羅場にさせる一時間前くらいのテンションだ。 危なっかしい。 不安になりつつ、私たちは別れて持ち場につくのだった。 にしたって、警戒されてんなぁ。 人で入り乱れているというのにもうすでに取材したことある奴らの姿がみられない。 普通に夏祭り楽しんでる女子グループとかには取材したんだけど……。 ううんと唸っていれば、手にあるスマホがブルブルと振動した。 春くんからだ。 『先輩っ、いました!』 「場所は?」 『全体的に黄色ベースのチョコバナナ屋台の前です』 「今行く」 『あの、なるべく早く来てください……!』 春くんの声は何故か震えていたのだった。
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