新聞部と曲者の夏祭り

5/5

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
若林先輩と向山先輩に別れの挨拶を告げ、次に向かったのは月屋のところだ。 ちなみに、向山先輩に最後の最後まで縋られた。 勿論、置いてきたけど。 「やっぱ、お前らか!」 そんな中、奥の方に進むにつれて聞こえてくる声。 あれは、隣のクラスのクズ男……ゲフンゲフン、ちょっと性格がアレな人、若芽だ。 顔は悪くない。ノリも悪くない。 でも、性格は悪い。 女はブランドバックとか思ってそうなところマジで嫌い。 でも、すぐに彼女がかわるからネタになるからそこは好きだったりします。 月屋を見つけ、私は手を振る。 「おーい、月屋ー」 「廉さーん」 「あ、二人とも」 私たちに気づいた月屋も手を振り返してくれた。 そのまま近くまで行き、私は営業スマイルで若芽にお決まりのフレーズを言う。 「どーもー、新聞部ですっ!」 「知ってるわ!」 でしょうね。 だって私この人に毎月取材してるもん。 「お前ら毎回毎回なんなんだよ!?俺に恨みでもあんの!?」 キャンキャンと吠える若芽に私と月屋はお礼として頭を下げる。 「ネタになるんで。毎度ネタ提供」 「ありがとうございます」 「じゃあ、この場から去れ!今すぐに!」 「だったら見つからないようにしなよ」 月屋の正論パンチに若芽が目を逸らす。 そのすきに私はカメラを構えた。 「あ、彼女さん。お写真いいですか?」 「ちょ、何してんだ、杏珠ちゃん!」 しかし、若芽の影に隠れていた今カノの顔が見えて、思わず「あ」と声が漏れた。 いや、この人って……。 月屋が私の声に気づいてチラリとこちらを見てくる。 「どうしたの、冬木。知り合い?」 「一週間前に若林先輩に告白してた人だ」 「え?」 ヤバいと思った時には遅かった。 うっかり口が滑り、ギョッとする春日と目を輝かせる月屋が視界に入る。 若芽の笑顔には凄みが出ていた。 「へえ。杏珠ちゃん、なんだって?」 「その杏珠ちゃんって呼び方キモ……すみません、今のは失言でした。忘れてください」 「キモはない……って、忘れるわけないだろ!?」 「なになに、若芽と若林先輩って真逆じゃん。クズ男と真面目だよ。でも、若ってついてるしどっちも性格に難アリか……」 月屋が楽しそうに若芽をつつく。 うわぁ、月屋の変なツボを刺激してしまった……。 今カノさんの方を見れば、俯いたまま一言も発しない。 あー、やらかしたかも。 この時間マジ地獄……。 と、思ったその時。 今カノさんがキッと顔を上げた。 「チッ、あーあ、今回は一週間か」 今カノさんは清楚そうなタイプに見えた。 けれど、舌打ちとかちょっと口悪そう。 「バレたんならもういいわ」 「愛?」 若芽が驚いたように彼女さんを見る。 そして、突然歩き出した。 「冬木……アンタ、覚えてなさいよ」 ……ん? こちらを振り返りもせずに、愛さん?にそう言われ、私はポカンとする。 「あれぇ?私、嫌われた?」 「多分」 うーん、そっか。 でも、申し訳ないけど私は一週間前に告ってたこと言っちゃっただけだし。 「まあ、いいか」 「俺、冬木のそういうクズなくらいサッパリしてるところ好き」 月屋に謎の告白をされ、適当に流しつつ、私は春くんに声をかける。 「じゃ、遊びに行こうか」 「行きたいです!」 「行こう行こう」 取材相手がいなくなったところでそのまま私たちも歩き出す。 そして、置いてかれた人が一人。 「ちょっ、なんなんだよお前ら!待て、待てよーっ!」 夏の空に虚しく若芽の声が響いたーー。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加