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 ソロリとドアへ近づくと、引っ込んだ手首の代わりに、今度は顔が現れた。二つに分けた赤毛の前髪が揺れる。優しみに満ちた芯のある眸が、その隙間から見上げるように覗いた。僕と目が合うと、血色の良い薄ピンクの頬が持ち上がる。廊下には、ノズルを立てた掃除機だけが佇んでいた。   「ねえ、理仁。海を見に行こうよ」 「まだ仕事が終わっていないから」 「大丈夫よ。理仁のおかげで、ゴミなんて落ちてないんだから。お母さまも気付かないわ」  このお屋敷の住人は、理仁に対し厳しく接する者が多い。使用人だから仕方のないことだと分かっているが、(いじ)められることもある。特に花蓮の兄、天ヶ崎剣機(けんき)は人一倍当たりが強かった。富や名声の無い者に対し(さげす)み、常に自分が優勢となる解釈を押し付け、優劣を付けたがる。そんな中、花蓮だけが一人浮いていた。誰とも、(なに)とも、平等に接し、いつも相手を思いやっている。剣機の妹とは思えないほどに。  
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