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<1・馬鹿は蹴っても治らない。>
「酷いよ、翠ちゃん」
宝石のような涙が、頬を零れ落ちる。あたしの目の前には、女の子みたいな繊細な顔をしたイケメンの顔。
外国人の血が入っているとのことで、その瞳は宝石のような深い青い色をしている。
「俺、すごく大事にしてたんだよ。それを断りもなく壊すなんて、ちょっとあんまりじゃないかな。何で?俺、そんなに君に嫌われることした?俺のこと、そんなに嫌いになった?……俺はこんなに、君のことが好きなのに……その想いは全然伝わってなかったってことかな」
潤んだ瞳が、まっすぐにあたしを見つめる。まるで少女漫画のようなシチュエーション。何も知らない人間ならば、それだけで胸がキュンとするかもしれなかった。
ドン、と後ろから音がする。彼が、あたしの後ろの壁に思いきり手をついた音だ。ようするに、壁ドンというわけである。少し強引な美少年に、涙ながらに迫られる。そんな体験してみたいものだ、と妄想する少女は少なくないだろう。ましてや、あたしみたいな女子中学生なら尚更に。
「君がわかってくれてないなら、何度でも言う。……俺、本当に好きなんだ……翠ちゃんのこと。君の気持ちが落ち着くまでと待ってたけど、もう限界。これ以上待てない」
その顔が、吐息がかかりそうな位置まで近づく。
「お願い、翠ちゃん。俺と、付き合っ……」
「ざっけんな!」
そしてあたしは、そのお綺麗な顔を容赦なく殴り倒したのだった。
あっぎゃああああああ!と言って吹っ飛んでいく、来栖学園中等部三年、桜美聖也。イケメン崩壊して鼻血を出して吹っ飛んでいく先は、部室のロッカーの前である。
そう、ここは、サッカー部の部室。あたし、月島翠はそこの二年生マネージャーである。ついでに元ヤン。ついつい手が出てしまうのはご愛嬌、なのだが正直こいつ相手には容赦しなくていいなといつも思っているのだ。何故ならば。
「いい雰囲気作って誤魔化そうとしたってそうはいかねえからな」
あたしはビキビキと額に青筋を立てながら言うのである。
「部室にこっそり盗聴器と隠しカメラ仕掛けた変態に、慈悲はない!」
そう。あたしのことを好きだとのたまうこの先輩、実はものすごい変態なのである。
それこそ、何で警察に捕まってないの?と思うくらいには。
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