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「うん。別にいいけど」
竜崎さんが拒否しなかったことに安堵する。だがちくりと胸が痛んだのは確かな話だ。
だって。今から俺がしようとしていることの重大さを考えると、俺が竜崎さんだったら躊躇するだろう。
それなのに俺は、詳細を言わなかった。あえて普通の口調を装い、竜崎さんに警戒心を抱かせなかった。
そこまでして俺は竜崎さんと入れ替わりたいのかと一瞬だけ自問自答したことも確かだ。
だが、俺の答えは即答でイエス。俺は竜崎さんになりたくてなりたくて仕方がない。
覚悟を決めた俺は、いったん竜崎さんに背を向けた。そして、ブレザーのポケットから小瓶を取り出してコルクの栓を取り、金平糖を掌に載せる。
黄緑色をした、ごく普通の金平糖。本当にこんなもので竜崎さんと入れ替わることができるのか? だがいち早く竜崎さんになりたい俺は、口に入れて早々と噛む。甘ったるい金平糖は瞬く間に消化される。
あぁ、そうだ。食べてからの動作。
俺は竜崎さんに向き直り、握手をするべく右手を差し出した。そして同じように竜崎さんが差し出してくれた右手をぎこちなく握る。
柔らかい竜崎さんの手。それを感じることができただけで俺は幸せだ。
そう思い、俺は椅子に腰かける竜崎さんを見下ろす。俺と視線を合わせる吊り気味の瞳がやっぱり好きだなぁと思った瞬間──。
まぶしくて目を開けていられないほどの光に包まれた。
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