恐怖の誕生日

祝う友人)
ハッピーバースデー！

祝われた女)
ありがとう。嬉しい。

祝う友人）
今日で二十一歳だね。何か欲しいものある？

遠慮する女）
えー、別にないよー。

祝う友人）
嘘、この前誕生日プレゼントは
新作映画のチケットがいいなーって言ってたじゃん。
独り言で。

恐怖を覚える女）
いや、何で知ってるの？

祝う友人）
まあまあ。
というわけで、はいこれチケット。

嬉しそうな女）
え、わざわざ用意してくれたの？

あげる素振りだけ見せる友人）
いやこれは私の分。

祝われる女）
へ？

ゲームを仕掛ける友人）
これからゲームをしてあなたが勝ったらあげます。

期待が外れた女）
え、普通にくれるんじゃないの？

ゲームを仕掛ける友人）
やっぱり欲しいんじゃない。

素直じゃない女）
いや、別に欲しくないけど。

さりげなく怖い発言をする友人）
まあまあ、とりあえずゲームをするね。
ルールは簡単。
この家に仕掛けた盗聴器を捜してください。

思考停止した女）
……は？

大事なことは繰り返す友人）
盗聴器を捜してください。

混乱する女）
いや何回も言わなくても聞こえてるよ。けどちょっと待って。

遮られて不満そうな友人）
何？

混乱している女）
いや、「何？」じゃないよ。
盗聴器？　え、仕掛けてるの？

盗聴器を仕掛けた友人）
そうだけど。

再び恐怖を覚える女）
何当たり前のこと聞いてるの、みたいなテンションで言うのやめて。
え、こわい。いつの間に仕掛けてたの？
え、だからチケットのこと知ってたの？

得意げな友人）
チケット欲しかったこと認めたね。

隠すより大事なことがある女）
うん、この際隠す状況じゃなくなったからね。
え、マジでこわいんだけど。

空気が読めない友人）
サプラーイズ！

空気を読ませたい女）
そんなサプライズいらないよ。
どこに仕掛けたの？

盗聴器を仕掛けた友人）
だからそれを探すのがゲームなんじゃない。楽しんでね。

恐怖におののく女）
いや無理だよ。宝さがしゲームとかなら喜んでするけど。
盗聴器でしょ。楽しめないよ。

ノリを求める友人）
もう、ノリが悪いぞ！

常識を説く女）
そんなかわいこぶってもダメだよ。下手すりゃ通報もんだよ。知らない間に家入られてたってことでしょ。

仕掛けたことを強調する友人）
そりゃまあ、仕掛けてるからね。

恐怖におののく女）
それが当然みたいなテンションほんとにこわいって。
え、いつから仕掛けてたの？

回想する友人）
えーと、一年くらい前？

聞いたことを後悔する女）
うわ、聞くんじゃなかった。
そういえばここ一年くらいテレビとか電話の調子がおかしかったような気が。

盗聴器を仕掛けた友人）
鈍感だね。

鈍感だった女）
仕掛けた張本人が何言ってんの。

盗聴器を仕掛けた友人）
怖がってないで早く探しなよ。

腹くくった女）
怖がらせてる自覚はあるんだね。
とりあえず探さないと色んな意味で危険な気がするから探さないとね。

盗聴器を仕掛けた友人）
あ、ちなみに盗聴機、十個くらい仕掛けてるから。

諦めた女）
もう引っ越そう。