天の川を泳ぐ魚

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  ◇ 「頼まれていた釣竿、バッチリできてるぜ! 耐久性も良し、収納性も良し、更には縁結びのおまじないまでしておいたからヌシとの出会いも待ったなし!」  道具屋の友人の言葉を思い出しながら、私はルアーを泳がせた。  夏の夜釣りがしたいと思って選んだのがこの湖だった。幼い頃からオババに散々脅された、人喰い魚の出る湖。  人が寄り付かないから小物も大物もたくさんいるだろうという期待を胸に抱いて、じっと水面を眺める。 ――本当に人喰い魚が現れたらどうする?  夜の涼しさだけではないヒヤリとした感覚が背中を撫でる。  オババは長いこと生きているだけあって、その昔話なのか説教なのか分からない物言いの中に「本物」が混じっている。例えば三年前なんかは、その年に狩れる一番大きい鹿の全長を、指の幅ひとつほども違えずに当てていた。  だから人喰い魚がいる話も、あれだけ何度も聞かされたんだ、まるっきりの嘘ではないのだろう。 ――成人前の子供じゃないんだ、自分の身くらい自分で守るさ。  腰に提げた剣鉈(けんなた)の存在に意識を向けて、ひとつ、深呼吸をする。  瞬間、手に重さを感じた。  大きい気がする。  今まで感じたことのない引き方が、未知の出会いを予感させる。  どんな姿の魚だろうか。  引きに合わせて釣竿を操る。  右へ。左へ。左へ。  波立つ水面に魚影のようなものが見える。  いやしかし、あれほどキラキラと瞬く魚影なんてものがあるのだろうか。そう疑問に思った時だった。  勢いよく水飛沫を上げながら、  「それ」は宙を舞った。  私の背丈を超えるほどの大きさ、力強くしなる尾鰭、そして何よりも目を引くのはその鱗。  光る(しろがね)を纏っているかのような色彩は、水中を泳いでいたときとは比べ物にならないほどの輝きがある。  惚けた私を、その漆黒の(まなこ)がぐるりと映し出した。  ざぶん、という音で我に返った。  あれが人喰い魚なのか、それとも湖のヌシなのか、はたまたどちらも違うのか。  跳ねた拍子に針が外れてしまったらしく、釣竿が軽い。一旦引き上げて針を確認しようと、力を入れる。  予想に反して、何かの手応えを感じた。  何に引っかかったのだろうかと考えながら、釣竿を振りつつ様子を見ていると、少しずつ岸には近づいていることが分かる。  そろそろ見えてくるかと思っているうちに、針のある辺りの水面がぼんやりと明るくなり始めた。
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