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かき氷
午後八時 テレビは無音
閉め切った窓 冷房で揺れるカーテン
かき氷は抹茶だよね 並んだスプーンに逆さの瞳
いつからか冷えたままのビールは 冷蔵庫の奥で眠っている
あなたが好きだったおつまみの名前 ちゃんと今年も覚えているよ
私の分のスプーンを取って 苦い氷を口に入れる
窓ガラスの向こうでは大きな花火 お祭りの日は決まってこれを食べたよね
本当はイチゴ味が好きだけど あなたにあわせた大人の味
「美味しいね」
「美味しいね」
嘘じゃ無いよ 全部が本当
全部が好きで 忘れられない
気が付けば外から雨の音
花火は終わっちゃったかな
あなたの居ない夏の夜は こんな感じで過ぎていく
微かに蝉の鳴き声が聞こえた気がした こんな都会で生きる生命
あとどれくらい生き残れるだろう あなたと居た この部屋で
安い氷が頭に響いて 生きているって実感
ああ きっと来年も同じように過ごすんだ
もう少しだけ待っていてね いつかは会いに行くからね
何も輝かない空を見つめながら食べるかき氷
ソファーの向かいにあなたが座っている気がして
あなたの分のスプーンに 苦く染まったくちびるで そっと小さなキスをした
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